吐血と彼女の息が落ち着いてきた頃、隣でスンとした顔をしていた彼が口を開く。
小さくうなづく彼女、口の周りには少量の血が付いていた。そんな最中、少し離れたところで主催者と案内人形が話をしている。
俯いたまま小さく震える彼女。こんな140cm前後の少女のどこが怖いのか———なんて思ったが、きっとあの主催者には何か私達の知らない秘密があるのだろう。そうでもないと、怯えるなんて事できないはずだから。
非があるのはハーツの方だとしても、少し可哀想に思った。
まぁ、半分くらい嘘だけど。
ずっと横にいる親友は、少し不安げな顔で言った。
皿に乗ったスープ。食べるのは気が引けたが、ハーツが言うにはもう毒は入っていない。食べるしかない。「腹が減っては戦はできぬ」そう言われるくらい食事は重要で、これは戦なんかよりも悲惨な状況だ。
食べないなんてしたら、次いつ飯が出てくるか分からない。
一杯だけ、スープを貰うことにした。こんな怪しい料理、変に食べないほうがいいから。
前の席に座る...水葉だっけか。そんな名前の水色の髪をした少女は、ゆっくりと、だがとまることなく食べ物を口へと運ぶ。さっきあんなことがあったのに怖くないのかと思ったが、小さな口で食べ続けるあたり、きっと何か見分ける術を持っているのだろう。
盛られた料理をおいしそうに食べる彼女は、どこか足りない何かを満たすようにも見えた。
気のせいかもしれないが。
それをみてニコニコと微笑む..桃花?
彼女は少しの間だけ水葉を眺めたあと、すぐに横に座る愛乃留へと話しかけた。
興味なさげな愛乃留に話しかける桃花は、少し焦っているのか早口で言葉を並べた。
口に入った食べ物を見せないように、手で口を押さえながら話す玲愛。軽く名を名乗った後に、彼女はひとつ提案をした。
ツンケンしたような冷たい対応をとる愛乃留をよそ目に、一足早く食べ終わった桃花は周りの人へ話しかけに行った。
その誘いを軽く断って、しょぼしょぼとした顔で俯く彼女。正直どうでもよかったが、ここはデスゲームだ。周りに疑われたりしない為にも、ある程度人望は厚くしておいたほうがいいと思う。
情けとも言えるそれ。「可哀想」とは思わないから情けではないかもしれないが、それでもいい。
人望は必要だ。
飲み込んだスープ。まだ暖かくてほんのりと甘いそれは、心が落ち着いた。
横でもごもごと頬張る尭に、残したパンをそっと置いて、自身の使った食器を配膳台に戻す。
ここは確かにおかしい。絶対に、生き残る。
ただのちょっとしたイタズラでも、ガチになってやってやる。Sayakaと二人で生き残って、今度はペットショップに猫でもみに行こうか。
食後、約束をした。
この約束を守るために、私たちは生きるんだ。
さっきの毒でわかった。こいつらは本気だ。
あいつは出血毒を少量、ほんの少量と言った。だから、きっと本当に殺す気。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。