結婚式の数日後
流星はひとり、小瀧家の前に立ち、チャイムを押した
小瀧家は立派なお屋敷だ
改めて見ると、本当に大きな家だ
望が出迎えてくれ、広いリビングに通される
ここも、昔から何度も来た
モダンでお洒落なインテリアで、天井が高い
流星は望に、持って来た紙袋を渡した
結婚式の写真を、望はたくさん撮ってくれていたのだ
と望は紙袋の中をのぞく
流星は周囲を見渡した
望はそう答えて、テレビの電源を入れた
ゲームをするつもりらしい
流星も昔から、ここで一緒にゲームで遊んだ
すると足音が響いて、二階から、望の母親の琴が下りてきた
流星はいつものように、ぺこりと頭をさげる
琴は、望に似て顔立ちが整った綺麗な人で、服装も常に洗練されている
でも、昔から、流星に対してはそっけない人だ望は母親に紙袋を渡した
琴は紙袋を受け取り、そっけないままの口調で
と言った
それから琴は出て行った
望がテレビの前のソファーに座って、ゲームを始めようとしている
流星は望の隣に座って、呟くように言った
望は顔をしかめる
望は束の間黙り込んだが、やがて言った
流星も少し黙ってから、言った
望の家は裕福で、望はそれをひけらかすことも、恩に着せることも決してなかったけれど、流星が彼と姉の遙に世話になっていたことは事実だ
母の由香里が仕事で遅い時は、何度もこの家で、家政婦さんが作る夕食をご馳走になった
由香里が過酷なパート勤めで倒れた時は、この姉弟が、真っ先に駆けつけてくれた
病院の待合室で、まだ高校生だった遙が、心細さに震える流星の肩を抱いてくれていた
あの時の遙の手の温もりを、流星は昨日のことのように憶えている
母子家庭を引き目に感じた事などない
でも、母子家庭であるがゆえに困ったことは現実として何度もあって、そういう時、いつも側にいて寄り添ってくれたのが、望と遙だ
だから、してもらってた、のだ
望はじっと流星を見つめて問う
流星は頷いた
再び黙り込んだ望に、流星は、へへへと笑う
流星は力なく笑う
卑屈な気持ちで言ってるんじゃない、と言おうとして、でもやっぱり、卑屈な気持ちで言っているんだと気づいたら、妙におかしくなったのだ
当然のことながら、流星の言葉も、態度も、ひどく望を傷つけていた
望は叫んだ
違う
ふざけてなどいない
望は……流星の面倒を見なければならないと思っている
初めて出会った小さな時から
貧乏で身体が弱く、よく女の子に間違われていた流星を、自分が守らなければならないのだと
それは望の優しさのためだが、それだけではないことに、流星も気づいていた
今、だから、流星はあえて言う
望は今度こそ本当に、黙り込んでしまった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。