第26話

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2018/08/15 06:00
結婚式の数日後
流星はひとり、小瀧家の前に立ち、チャイムを押した
小瀧家は立派なお屋敷だ
改めて見ると、本当に大きな家だ
望が出迎えてくれ、広いリビングに通される
ここも、昔から何度も来た
モダンでお洒落なインテリアで、天井が高い
流星は望に、持って来た紙袋を渡した
藤井流星
望、これ、母さんが、写真のお礼にって
結婚式の写真を、望はたくさん撮ってくれていたのだ
小瀧望
ふーん、別にいいのに
と望は紙袋の中をのぞく
流星は周囲を見渡した
藤井流星
遙ちゃんは?
小瀧望
あー、ボランティアじゃね?ピアノ教室の
望はそう答えて、テレビの電源を入れた
ゲームをするつもりらしい
流星も昔から、ここで一緒にゲームで遊んだ
すると足音が響いて、二階から、望の母親の琴が下りてきた
流星はいつものように、ぺこりと頭をさげる
藤井流星
あ、こんにちは
小瀧琴
どうも
琴は、望に似て顔立ちが整った綺麗な人で、服装も常に洗練されている
でも、昔から、流星に対してはそっけない人だ望は母親に紙袋を渡した
小瀧望
これ、流星の母ちゃんから、紅茶
琴は紙袋を受け取り、そっけないままの口調で
小瀧琴
ご結婚おめでとうございます
と言った
藤井流星
あ、ありがとうございます
それから琴は出て行った
望がテレビの前のソファーに座って、ゲームを始めようとしている
流星は望の隣に座って、呟くように言った
藤井流星
………ねえ、望
小瀧望
んあ?
藤井流星
今まで、ありがとうね
望は顔をしかめる
小瀧望
なんだそれ、別れの挨拶か?
藤井流星
いや、何となく。望にはいろいろやってもらってたし
望は束の間黙り込んだが、やがて言った
小瀧望
やってもらってたとか言うなよ。あげてたわけじゃねぇし
流星も少し黙ってから、言った
藤井流星
うん……でもやっぱり、もらってた、だよ。何でも持ってる望に
望の家は裕福で、望はそれをひけらかすことも、恩に着せることも決してなかったけれど、流星が彼と姉の遙に世話になっていたことは事実だ
母の由香里が仕事で遅い時は、何度もこの家で、家政婦さんが作る夕食をご馳走になった
由香里が過酷なパート勤めで倒れた時は、この姉弟が、真っ先に駆けつけてくれた
病院の待合室で、まだ高校生だった遙が、心細さに震える流星の肩を抱いてくれていた
あの時の遙の手の温もりを、流星は昨日のことのように憶えている
母子家庭を引き目に感じた事などない
でも、母子家庭であるがゆえに困ったことは現実として何度もあって、そういう時、いつも側にいて寄り添ってくれたのが、望と遙だ
だから、してもらってた、のだ
望はじっと流星を見つめて問う
小瀧望
………金の話か
流星は頷いた
藤井流星
そうだよ、お金の話。最初から何もかも持っている望には分からないと思うけど
再び黙り込んだ望に、流星は、へへへと笑う
藤井流星
何か僕、すごいカッコ悪いね
小瀧望
……お前は、俺にやってもらうのが嫌だったのか?
流星は力なく笑う
卑屈な気持ちで言ってるんじゃない、と言おうとして、でもやっぱり、卑屈な気持ちで言っているんだと気づいたら、妙におかしくなったのだ
当然のことながら、流星の言葉も、態度も、ひどく望を傷つけていた
小瀧望
ふざけんな!
望は叫んだ
違う
ふざけてなどいない
望は……流星の面倒を見なければならないと思っている
初めて出会った小さな時から
貧乏で身体が弱く、よく女の子に間違われていた流星を、自分が守らなければならないのだと
それは望の優しさのためだが、それだけではないことに、流星も気づいていた
今、だから、流星はあえて言う
藤井流星
……そういう風に囚われている望が嫌だ
望は今度こそ本当に、黙り込んでしまった

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