私の質問に、先輩は困ったように笑みを浮かべて言葉を濁した。
これから先、もしも先輩と付き合うとなれば、先に卒業してしまう先輩の進路を聞いておきたい。
二学年も離れていれば、気になってしまうのだ。
そんな素朴な疑問だったのだけれど、先輩はさっきから答えづらそうにしている。
嫌な話題だったのかもしれない。
本心らしき言葉が聞けたけれど、歯切れは悪い。
何かあったのだろうか。
【ノワール】はつい先日読んだ、ミステリー小説。
十七歳の少年が、その若さで殺し屋を請け負い、ある目的のために裏社会で暗躍するというもの。
もちろん最後には、大きなどんでん返しが待っている。
その話をすると、先輩は目を丸くした。
先輩は少し遠くを見つめ、頬杖をつきながらそう呟いた。
先輩ははっと我に返り、次の瞬間、私の顔を見て吹き出した。
先輩は楽しそうに笑っている。
さっきは悩んでいるようにも見えたけれど、私の勘繰りすぎだったみたいだ。
私はすぐさま答えた。
公務員は大変だけどやりがいもあるし、安泰だからと常々両親に聞かされている。
先輩は一瞬きょとんとしたけれど、すぐに頷いた。
でも私だって本当は、心の奥でくすぶっている夢がある。
言おうかどうか迷って、先輩なら何て答えてくれるだろうと思い、話すことにした。
口に出してみると、少し恥ずかしい。
けれど、先輩は全く笑わないで真剣に聞いてくれた。
核心を突いた言葉に、私は気付かされた。
最初からできないだろうと諦めて、楽な道に逃げて、やろうともしていなかったのだ。
先輩が苦笑いする。
でも、副業禁止なんてことは、今の私にはどうでも良かった。
先輩が頑張れと言いたげに、私の額を小突いた。
こんな時間を、もっともっと過ごしたいと思い始めている。
【第16話へつづく】














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!