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2021/11/18

第15話

私にそんな才能ないし/Side.友梨佳
黒崎 廉
黒崎 廉
あー……卒業後、ね

私の質問に、先輩は困ったように笑みを浮かべて言葉を濁した。


これから先、もしも先輩と付き合うとなれば、先に卒業してしまう先輩の進路を聞いておきたい。


二学年も離れていれば、気になってしまうのだ。


そんな素朴な疑問だったのだけれど、先輩はさっきから答えづらそうにしている。


嫌な話題だったのかもしれない。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
あの、無理には聞かないので……
黒崎 廉
黒崎 廉
……大学に通いながら、もう一度演技の勉強ができたらなとは思ってる

本心らしき言葉が聞けたけれど、歯切れは悪い。


何かあったのだろうか。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
そうなんですね!
じゃあいつか、また先輩のお芝居が見られるかもしれないですね
黒崎 廉
黒崎 廉
俺が役者に戻っても反対はしない?
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
はい!
実は、【ノワール】って作品の主人公とか、今の先輩に合いそうだなとか、勝手に想像してて……

【ノワール】はつい先日読んだ、ミステリー小説。


十七歳の少年が、その若さで殺し屋を請け負い、ある目的のために裏社会で暗躍するというもの。


もちろん最後には、大きなどんでん返しが待っている。


その話をすると、先輩は目を丸くした。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
先輩……?
黒崎 廉
黒崎 廉
やっぱり、演じる醍醐味ってそういうことだよな……

先輩は少し遠くを見つめ、頬杖をつきながらそう呟いた。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
(何か考え込んでる。あんまり深く聞かないほうがいいかな)

先輩ははっと我に返り、次の瞬間、私の顔を見て吹き出した。
黒崎 廉
黒崎 廉
大丈夫、何も心配しなくていい。
ちょっと昔のことを思い出してただけ
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
そうですか?
黒崎 廉
黒崎 廉
友梨佳、あごのとこにクリームついてる
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
わっ! 恥ずかしい……

先輩は楽しそうに笑っている。


さっきは悩んでいるようにも見えたけれど、私の勘繰りすぎだったみたいだ。
黒崎 廉
黒崎 廉
友梨佳は? 将来の夢ってあるの?
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
地方公務員です

私はすぐさま答えた。


公務員は大変だけどやりがいもあるし、安泰だからと常々両親に聞かされている。
黒崎 廉
黒崎 廉
なるほど、ご両親が公務員だったね

先輩は一瞬きょとんとしたけれど、すぐに頷いた。


でも私だって本当は、心の奥でくすぶっている夢がある。


言おうかどうか迷って、先輩なら何て答えてくれるだろうと思い、話すことにした。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
夢は一応他にもあって……。
本を読んでると、私もこんな素敵なお話を書きたいって思うことがあります。
私にそんな才能ないし、亜季ちゃんにも、家族にも言ったことなかったんですけど

口に出してみると、少し恥ずかしい。


けれど、先輩は全く笑わないで真剣に聞いてくれた。
黒崎 廉
黒崎 廉
どうして才能ないって分かるの?
やるだけやってみたらいいよ
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
え?
黒崎 廉
黒崎 廉
俺だって、子どもの頃に演技をやらされるまで、できるかどうかなんて分からなかったんだから
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
……!

核心を突いた言葉に、私は気付かされた。


最初からできないだろうと諦めて、楽な道に逃げて、やろうともしていなかったのだ。
黒崎 廉
黒崎 廉
ああ、でも公務員って副業禁止だったな。
両立は厳しいか……

先輩が苦笑いする。


でも、副業禁止なんてことは、今の私にはどうでも良かった。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
いえ。
書いて、みようかな……
黒崎 廉
黒崎 廉
おっ、未来の作家の誕生か?
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
ま、まだ気が早いです!

先輩が頑張れと言いたげに、私の額を小突いた。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
(やっぱり、今の先輩が一番素敵)

こんな時間を、もっともっと過ごしたいと思い始めている。


【第16話へつづく】