夏のときに比べれば日が暮れるのはまだまだ早い。
そんなことを少しずつ落ちている、朱色の日が伝えてくる。
段々と青色と赤色の境目が見えなくなる空を見て、思い出したように言うと、三人は口を開けて間抜けな面を見せる。
言外にどっちにするかと問うと、ワイスくん…、いや、おらふくんが眼をキラキラと輝かせた。
二人が泊まるなら、と寂しがり屋らしいジュー…、じゃなくて、…ぼんさんが言う。
それに思わず呆れたような声で突っ込んでしまった。
えっと、ドズルさん、が大量の疑問符を浮かべて問うてくるのに、おんりーは極めて冷静に言葉を返す。
確かにそのままの意味なので、説明などあまり詳しくはできないだろう。
ぼんさん、が染み染みとした様子で言うのに、おらふくん…が首を傾げた。
おんりーの言葉におらふくんは少し顔を顰めて唸った。
ところどころ訛った言葉遣いでおらふくんは、自分の家系について話した。
そういうものなんだなと、一人納得していると、彼は「それよりも!」と鬼気迫る表情で言う。
むすりと口を尖らせ、拗ねたように言う彼に、おんりーはたじたじである。
口に出すのが慣れないようで、つまりながらも彼の名前を呼んだ。
彼はそれに満足したようでニマーと笑う。
俺も気をつけないといけないな、と彼のことを呼ぶときのことを考えた。
ぼんさんが、時々相槌や補足を入れながら、ドズルさんはおらふくんの疑問に答える。
彼等は、「あと、」と妙に強めの口調で笑った。
ドズルさんの有無を言わせないような笑みに、初めて恐怖を覚えたように思えた。
俺達は全力で首を縦に振る。
何度も振るので残像も見えているかもしれない。
現におらふくんが「わぁ」と俺達の首の動きを見て、固まっている。
それに満足したのか、ドズルさんはもう一度優しげに微笑んだ。
ピッピッ、と横でMENがレンジをいじる。
俺はその間に食器や飲み物の用意をする。
少し経って、レンジが音を立てた。
コトッ
そう言うや否や、彼等はパチンと両手を合わせた。
それを不思議に思っていると、一言。
本当に意味がわからず、疑問符を飛ばす俺達におらふくんが気づいた。
始めはきょとりとわからないようにしていたが、直ぐにわかったようで、「ああ!」と声を上げた。
MENがおらふくんの言葉を復唱した。
それにおらふくんは大きく頷く。
「それが最近ここらへんでも浸透してるんだ」と彼は教えてくれた。
俺達は見様見真似で手を合わせる。
言い慣れないので少し吃ってしまったが、それよりも新しく知った言葉が面白いと思った。
『いただきます』なんて、あそこでは教わらなかった。聴かなかった。
出した夕食を全て平らげ、また手を合わせた。
今度は『ごちそうさま』と言うらしい。
もう一度、食材として食べた命や作った人へ、感謝するらしい。
初めてMEN以外の人と食卓を囲んだ。
いつもよりもご飯の味は濃くて、美味しく感じたのは何故なのか。
俺達にはまだわからない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。