とうやは身支度を終えるなり、
玄関で私の頭を撫でてから家を出た
平日は学校で毎朝早いらしい。
一緒にいてあげられなくてごめんね、と
言う とうやに「 大丈夫だよ 」と返すまでが
いつものことだった。
とうやの言うとおり、鎖は家の中では
どこにいても伸び続けられるほど長い
鎖自体はどうやら2階の部屋のベッドの足に
かなり強く巻き付けられているようで
私の力では鎖を解くことができなかった
特にすることもないまま、テレビを見たり
昼寝をしたりして時間を潰す
そうして、夕方頃になってくると
窓の外の空に浮かんだ太陽がもうそろそろ
沈みそうなのが見えた
そういえば、家の外に出ようとしたら
怒られてしまったけれど、窓から
外の様子を見るのはどうなのだろうか。
それもダメ?
しかし、決して外へ出るわけではない。
そう判断して、少し高い位置にある窓の
鍵を開けるなり、窓をスライドさせた
ふわりと冷たい空気が部屋に入ると同時に
窓の下枠に手をかけてよじ登り、
身を乗り出すように外の様子を見る
しかし、
やけに手が動かしにくいと感じて
後ろを振り返ると、そこには長い鎖が
ピンと張って伸びていた
それだけで、この鎖はこれ以上
伸びないということがわかる
もしかして、と思って窓を開けたまま
玄関のほうへ歩いていく
玄関の扉が見えてきて、唾をゴクリと飲む。
…まだ、鎖は伸びてくる
扉に近づいて、そっとドアノブを
掴もうと手を伸ばしたとき、
ぐ、と手が止まった。
指を伸ばせば、指先が微かにドアノブに
触れることができるが、決して握ることは
できなかった。
そう、鎖の長さが足りないのだ。
勢いをつけて腕を振り回しても、
鎖が伸びてくれる気配はない。
むしろ、何度やってもこれじゃ
私の手首が痛くなるだけで。
重りになっているベッドを引っ張るほどの
力が、私にはない
全部、察した。
窓を開けることは可能。
つまり換気などは許されている。
……が、窓から出ることや
玄関を開けることなどはできない
言い換えれば、この家からは
私ひとりじゃ絶対に出れないということだ。
少なからず、手錠に繋がれた鎖がある限り。
…また、胸の奥で感じたモヤッとしたものに
顔を顰めながらも無視をした。
✧︎ ✧︎ ✧︎
それから、とうやが帰ってきたのは
10分くらい経った頃だった
帰ってきて、リビングに入るなり
とうやは少し目を見張ってから
すぐにこちらを見下ろした
心做しか、その瞳はどこか冷たい。
なんだか、こちらの様子を伺っているような
まるで人に疑いをかけるときの目をしていた
突然の質問の意図がわからず、
頭に"?"を浮かべながら素直に答える
すると、とうやの瞳は
意味深にすっと細められた
こちらに歩み寄ってきた とうやの
その手に持っていたものを見て
無意識に目を丸くする
あれ、……首輪?
首に触れた冷たい革の感覚に
目を見開いたのは、とうやが言葉を
発したのとほぼ同時だった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。