第32話

IZ*ONE ミンジュ
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2026/06/08 15:15 更新



IZ*ONEとして初のフルアルバム「BLOOM*IZ」のタイトル曲であるFIESTAのダンス練習が始まってから、早くも一週間が経過した。

振りを覚える段階が終わり、フォーメーション練習に
移ってから3日目の今日。

練習室には、少しずつ疲労の色が滲み始めていた。




音楽が止まるたびに誰かが床へ座り込み、
水を飲みながら肩で息をする。

振りは頭に入っていても、移動や立ち位置を含めて身体に落とし込むにはまだ時間が足りない。何度も繰り返される曲に合わせて、集中力も体力も少しずつ削られていく。



「もう一回」

繰り返される先生の言葉に、メンバー達はため息が漏れそうになるのを堪えながら必死で食らいつく。



思うように揃わないもどかしさと、蓄積した疲労が
練習室の空気をわずかに張り詰めさせて行くのを
皆が感じ取る中。

あなたは視界の端で一人の姿を追っていた。














「今日はここまで」

先生の一言が響いた瞬間、それまで練習室を覆っていた
張り詰めた空気が糸が切れたようにほどけていった。



イェナ
やっと終わった…
サクラ
もうムリ…しぬ………



あちこちから悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。
メンバーたちは次々と床へ倒れ込む。

水筒に手を伸ばす者、ストレッチを始める者、床に大の字になったまま動かなくなる者。それぞれが思い思いに力を抜いていく。



ユジン
あなたおんに、今日ご飯食べたら
ゲームしましょう


床に寝転んだまま静かに息を整えていたあなたの顔を
覗き込むようにユジンが声をかけた。


あなた
まだ何食べるか決まってもないのに、
もう食べ終わったあとの話…?
ユジン
そうです!
あなた
えぇ……今日…?
一刻も早く寝たいんだけど…
ユジン
だめですよ!
この間約束したじゃないですか!
あなた
それとこれはまた別の話で……
あなた
…今日はイェナ相手で我慢してくれない?


そう言いながらようやく体を起き上がらせると、
後ろから不意に肩を掴まれた。


イェナ
やァ!
私で”我慢”ってなんだ我慢って!
あなた
ちょ…うそっ、冗談ですから…
まじで、やめて…


前後に揺さぶられている途中、
あなたはまた一人の姿を探す。

視界に写った彼女は、少し離れたところで一人
体育座りをしながらタオルで汗を拭き取っていた。



イェナに解放されるのを待ってから、
ようやくあなたは声をかけた。


あなた
ミンジュ、



ミンジュ
……あ、はい!
あなた
帰ってご飯食べたら、一緒にゲームしない?


名前を呼ばれたことに気が付いて、ふと我に返ったように返事をしたミンジュにそう問いかけると、ミンジュは申し訳なさそうに笑った。


ミンジュ
ぜひやりたいんですけど…
ちょっとだけ残ろうかと思ってて、


その言葉を聞いた数人のメンバーが”真面目だなぁ”
と感心した声を上げる。



既に支度を終わらせていたユジンからの催促を
振り払うように、

あなた
じゃあ、私も。


と、あなたはミンジュの目を真っ直ぐ見て返した。



ユジン
えぇ!ゲームは!?
あなた
帰ったら途中から参加するから…
先イェナとやってて
ユジン
えぇ〜……
…絶対ですからね、、

まるで遊びに誘った飼い主に断られた大型犬のように、
目に見えてしゅんとするユジンの頭を撫で回す。







ウンビ
帰るとき、ちゃんと連絡すること
ウンビ
無茶しすぎもだめだからね
あなた
はい、ちゃんと守ります


あなたの言葉を受けると、ウンビは少し口元を緩め、
安心したような表情を見せた。





やがて扉が閉まる音だけが静かに響いた。
重たい音を最後に、室内は不意に静寂へ包まれる。

誰かの笑い声も、音楽も、もう聞こえない。
二人きりには広すぎる空間が、
どこまでも続いているように感じた。












あなた
…ごめん、迷惑じゃなかった、?


先に静寂を切り裂いたのはあなただった。


ミンジュ
…え?
あなた
…もしかしたら、
一人になりたかったかな、って


思いがけない言葉に、ミンジュは一瞬返事を忘れる。

開きかけた口からは何も出てこなくて、
ただ目を瞬かせることしかできなかった。




あなた
練習中、すごく思い詰めた顔してたから。
あなた
不安とかもどかしさとか…思ってること隠さず言えなんて思わないけど、全部一人で抱え込む必要ないよ



静かな声だった。
責めるわけでも、無理に聞き出そうとするわけでもない。ただ事実を伝えるような穏やかな言葉。

けれど、その一言はミンジュの胸に張り詰めていたものをあっけなくほどいた。



ミンジュ
………っ、


息を呑むような音が漏れる。
次の瞬間、堪えていたものが切れたように
涙が溢れ出した。

慌てて顔を背けようとするが、
次から次へと零れる涙は止まらない。


ミンジュ
ごめ、……なさ……っ…


声を震わすミンジュを見ても、
あなたは驚いた様子を見せなかった。

まるでこうなることを予想していたかのように、
静かに一歩近づいて、そしてそっと背中へ手を添える。




ミンジュのしゃくり上げる声だけが
静かな練習室に小さく響く。

あなたは何も言わずにその背中を優しくさすり続けた。











あなた
…落ち着いた?
ミンジュ
…はい
ミンジュ
すみません、急に大泣きして…


恥ずかしそうに、ぎこちなくはにかんだミンジュに
あなたは静かに胸を撫で下ろした。



あなた
そろそろ爆発するかなと思ってたから、
…よかった
ミンジュ
…初めから泣かせるつもりだったんですか?
あなた
聞こえは悪いけど…
まぁ、そんなとこ?
ミンジュ
ははっ、ひどいオンニだ
あなた
ウンビオンニに怒られちゃうな



冗談っぽくそう放ったあなたを、
ミンジュは涙の残る目で見上げる。

オーディション中もさり気ない優しさで
手を差し伸べてくれたのがあなただった。




ミンジュは一言も発さず、じっとあなたを見つめる。
泣き止んだばかりの瞳はまだ少し赤く、
それなのに視線だけは不思議なほど真っ直ぐだった。


その視線を受け止めきれなかったあなたは、
ふっと目を逸らしてから誤魔化すように口を開く。


あなた
…一緒に練習しようか、



言い終わるより先だった。




一歩近づいたミンジュが、
そっとあなたの肩へ額を預ける。

抱きつくというより、寄りかかるような仕草だった。





ミンジュ
……もうすこしだけ、
甘えてもいいですか…


あなた
…うん



ミンジュは静かに目を閉じた。


規則正しい呼吸。
ほんのりと伝わる体温。
背中を撫でる穏やかな手。


この腕の中にいると、何も怖くない気がした。



ミンジュ
(……やっぱり好きだな)


声にはしない。
まだ伝える勇気もない。


それでも胸の中に浮かんだその想いは、
抱きしめられる温もりとともに、
静かに確かな形を残していた。







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