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第20話

ショムちゃんと二人のボス
橘
……お前達、どう言うことだ

 笑いを堪える宇田川先輩の横で、私達は橘先輩に正座をさせられていた。

橘
救援を要請した覚えはないが
実里
実里
わ、私が見ちゃったんです!
実里
実里
その……会長のスケジュール帳に、今日のことが書いてあるのを

 もじもじとしながら話す実里に、橘先輩は深くため息をついた。

橘
怪我人が出なかったから良かったものの……
橘
流血沙汰にでもなったらお前達は高校から処分されるかもしれなかったんだぞ
宇田川
宇田川
まあまあ。俺達だって助けられた訳だし、今回はおとがめナシでしょ
橘
そんな甘いペナルティで済むか! 帰ったら全員始末書だ。原稿用紙十枚分

 有無を言わさぬ橘先輩の物言いに、キプリウスのメンバーの中から「ひえっ」と泣きそうな声が上がる。

 眉間に皺を寄せて腕を組んでいた橘先輩は、「でも」と、小さな声で呟いた。

橘
俺と宇田川を守るために、今回お前達は所属の枠を越えて手を組んだ。その点は褒めてやろう
実里
実里
……!

 ここまではっきりと褒めてもらえたのは、恐らく初めてかもしれない。

 隣を見ると、実里は頬をりんごのような色に染めて生徒会長を見つめていた。

宇田川
宇田川
にしてもほんと傑作だったよね。ショムちゃんの独り芝居
宇田川
宇田川
『うわ~! 喧嘩だ~!!』って、俺ほんと笑い堪えるの必死だったんだけど
蘭子
蘭子
すみません大根役者で……
蘭子
蘭子
それにしても、私は生徒会長とキプリウスのボスに繋がりがあることにびっくりでした

 気になっていたことを口に出せば、「それッス」とキプリウスからも声が上がる。

蘭子
蘭子
二人は元々知り合いだったんですか?
宇田川
宇田川
知り合いっていうか……腐れ縁?
宇田川
宇田川
俺が前に住んでた家の近くにメガネの家があって。何かと構って来るからさあ

 飄々とした宇田川先輩の物言いに、「誤解を招く言い方をするな」と橘先輩が目を三角にする。

橘
お前は昔から問題ばかり起こしてただろう
橘
中学の時なんか教員会議でこっちの学校に来たお前の担任に、なんとかしてくれって泣きつかれる始末だったぞ
宇田川
宇田川
確かにやんちゃだったのは否定しないけどさ……

 どこか懐かしむような表情で目を細めると、宇田川先輩は改めて私達に向き直った。

宇田川
宇田川
そんな訳で、中学生だった俺はこのメガネに頼まれた訳。『暇なら放課後を取り仕切るボスになってくれ』って
蘭子
蘭子
放課後の……ボス?
宇田川
宇田川
そ。メガネは元々生徒会長になるつもりでこの高校に入ったけど、校内には意外と学校のやり方や日々の生活に不満を持つ生徒が多かった。いわゆる不良だね
橘
……権利を持つ人間が上から無理矢理押し付けようとしても、反感は膨らむだけだ
橘
それなら生徒会とは異なる立場で不良を束ねる人間を擁立しようと目論んだのが、俺と宇田川の当初の計画だった
実里
実里
じゃあキプリウスって言うのは……
宇田川
宇田川
まあ俺からしてみれば、はぐれ者でも楽しく高校生活を送れる権利と環境を手に入れたかったし、同志の奴らにも与えたかった、って感じだよね。今となっちゃ

 宇田川先輩の言葉に、「ボスぅぅ」と野太い泣き声が上がる。

男子生徒
男子生徒
オレ、ボスと出会えて良かったです
男子生徒
男子生徒
ボスが卒業して生徒会長みたいにイメチェンしても、一生ついて行きます!!
橘
……だそうだが

 視線を向けられ、宇田川先輩は「そうだねえ」とのんびりと返す。

宇田川
宇田川
ま、俺達にはさ。それぞれもう大事なものがあるんだねえ
橘
……
宇田川
宇田川
きっとそれは、お互い『孤独』だった頃よりずっと幸福なことだと思うよ

 宇田川先輩は私の前へ歩みを進めると、ぐいっと腕を引っ張った。

宇田川
宇田川
帰ろっか。ショムちゃん
蘭子
蘭子
先輩……

 すたすたと歩き出す宇田川先輩を追った私の背中を、「井瀬」と橘先輩の声が追いかける。

橘
俺は正直、お前を見くびっていた。逆境からお前を守ってやりたい一心で、つい辛辣な言葉をかけたこともあっただろう
橘
……すまなかった

 頭を下げた橘先輩に対し、「違います」と私は即座に返す。

蘭子
蘭子
『悔しければ、強くなれ』。中学生の頃、先輩は私にそう言いました
橘
井瀬……?

 驚いたような表情で顔を上げた先輩に、私は続ける。

蘭子
蘭子
先輩の言葉があったから、私は昔より強くなれたんです
蘭子
蘭子
私自身が何か大きく変わった訳じゃない。喧嘩が強くなった訳でもなければ、先輩みたいなリーダーシップを習得した訳でもありません
蘭子
蘭子
それでも今の私には、ピンチの時に共に力を合わせることのできる――大切な人が、仲間が、たくさんいます
蘭子
蘭子
……橘先輩。私を生徒会の一員にしてくれて、ありがとうございました

 橘先輩の眼鏡の奥の瞳が、明らかな動揺の色で揺れる。
 
蘭子
蘭子
(……きっとこれも、初めて見る先輩の表情だ)

 そう考えると、今日は随分と皆の新たな一面を垣間見たような気がする。

実里
実里
私も蘭ちゃんに出会えて良かったよっ

 言葉を発せずにいる橘先輩の代わりに――

 彼の隣に立っていた実里は、私へ向けてにっこりと微笑んだのだった。