笑いを堪える宇田川先輩の横で、私達は橘先輩に正座をさせられていた。
もじもじとしながら話す実里に、橘先輩は深くため息をついた。
有無を言わさぬ橘先輩の物言いに、キプリウスのメンバーの中から「ひえっ」と泣きそうな声が上がる。
眉間に皺を寄せて腕を組んでいた橘先輩は、「でも」と、小さな声で呟いた。
ここまではっきりと褒めてもらえたのは、恐らく初めてかもしれない。
隣を見ると、実里は頬をりんごのような色に染めて生徒会長を見つめていた。
気になっていたことを口に出せば、「それッス」とキプリウスからも声が上がる。
飄々とした宇田川先輩の物言いに、「誤解を招く言い方をするな」と橘先輩が目を三角にする。
どこか懐かしむような表情で目を細めると、宇田川先輩は改めて私達に向き直った。
宇田川先輩の言葉に、「ボスぅぅ」と野太い泣き声が上がる。
視線を向けられ、宇田川先輩は「そうだねえ」とのんびりと返す。
宇田川先輩は私の前へ歩みを進めると、ぐいっと腕を引っ張った。
すたすたと歩き出す宇田川先輩を追った私の背中を、「井瀬」と橘先輩の声が追いかける。
頭を下げた橘先輩に対し、「違います」と私は即座に返す。
驚いたような表情で顔を上げた先輩に、私は続ける。
橘先輩の眼鏡の奥の瞳が、明らかな動揺の色で揺れる。
そう考えると、今日は随分と皆の新たな一面を垣間見たような気がする。
言葉を発せずにいる橘先輩の代わりに――
彼の隣に立っていた実里は、私へ向けてにっこりと微笑んだのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!