第2話

曲者
72
2026/03/06 15:00 更新
 とある華奢な女が去った、ビル内部にて。
中原中也
そういえば…アイツ、今日はもう帰ったんですね
森鴎外
あぁ…あの子は、偶に早く帰る日があるんだよねぇ
 仕事はしっかりやってくれるから良いんだけれどね、

 と云う首領ボスの声を聞きながら、

 早々に姿を消した彼女の事を考えていた。


 此処はポートマフィア本部ビルにある首領の執務室。


 つまりは、横浜の街の暗部たるポートマフィアの中でも

 最も警備の厳しい場所。


 そこにいる俺はポートマフィアの五大幹部が一人だ。


 彼女もそう。


 そして、ポートマフィアである限り、

 世間一般に云う「定時」なんてものは存在しない。


 早く帰るためには、

 素早く正確に仕事を終わらせなければならない。


 しかも幹部ともなれば部下を持つ訳だから、

 仕事の量は格段に増える。


 つまり、それ程までに早く帰る理由があると言うこと。


 しかし、俺にはその心当たりがない。


 考え事をしていた俺に、首領が声をかけた。
森鴎外
4年前からかな、偶に早く帰るようになったのは
中原中也
4年前?
 4年前と云えば、アイツが幹部に成った年だ。


 幹部になったことで得られた何かがあるのだろうか。


 地位?金?羨望?いや、彼女は

 そんなものに囚われる様な人間じゃなかったと思う。


 “偶に”だから、足繁く通っている訳じゃない。



 じゃあ、何をしているんだ?



 そこから先を考えようとしたところで首領に止められた。
森鴎外
止めておきな。
あの子は、曲者ぞろいのマフィアの中でもさらに癖のある子なんだから。
 考えるだけ無駄だと遠回しに伝えられ、

 確かにそうだと思った。


 異能力者が揃う五大幹部の中で、

 彼女だけが唯一の異能力を持たない生身の人間。


 異能に頼らずにのし上がってきた実力者故、

 誇っても良いはずだが、

 彼女からしたらそうではないらしい。


 「人間」らしさがなくて気持ち悪い、

 と前に言っていた気がする。


 確かに、彼女の強さはどことなく

 人間離れしたものを感じさせるが、

 思い悩まなくてもいいのではないかと思う。


 そして、彼女は太宰の代わりとしてその座に就いている。


 万が一太宰が戻ってきたら、

 彼女は幹部ではなくなってしまう。


 在り方にも、立場にも癖がある。


 そんな彼女は、一体何処に行ったのだろう?

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