家まで送り届けると言う椿先輩の申し出を断って、私は帰ってきた。
昼食の後から少し体調が優れない。
きっと慣れないことをしたからだろう。
母は地域の懇親会に出かけていて、渚と風太は部活、千波と雷太も近所の家に遊びに行っている。
いつも夜は賑やかな家に、珍しく私はぽつんとひとりだった。
ショッピングバッグから買ったばかりのワンピースを取り出して自室の壁に掛け、いつも通りの家事をこなしていく。
掃除機がけは、平日できないところまで念入りに。
朝のうちに干しておいたシーツと枕カバーを取り込んで、各々の部屋にセッティングする。
明日は休ませてもらうのだから、今日のうちに済ませておきたい。
そんな思いで頑張っていたら、夕食後、私は体調を悪化させてしまった。
***
翌朝、渚と風太が心配して様子を見に来てくれた。
二人の声で起きるまで、目覚まし時計の音にも気付かず、ぐっすり眠り込んでいたようだ。
そう言って渚が体温計を持ってくる。
その後、音が鳴ったのを確認すると、38.3度の表示が見えた。
弱っている時は、家族の優しさが身にしみる。
私は頷き、もう一度ベッドに横になった。
***
その後迎えにやってきた大河くんは、渚たちから事情を聞き、日を改めてほしいと頼まれたらしい。
私の部屋まで、不安そうな表情を浮かべて様子を見に来た。
熱があるからか、そう言っている大河くんが優しくてかっこいい人に見えてしまう。
ぼーっと大河くんを眺めていたら、彼はふと視線を外して壁に掛けてあったワンピースを見つけた。
昨日、椿先輩と買い物に行く前に遭遇しているから、理解するのに時間はかからなかったようだ。
大河くんの言葉は少ないけれど、表情は雄弁だった。
珍しく、とても嬉しそうな顔をしていた。
いつも近くにいるいとこだから、分かる。
言わなくていいことを心の中にしまうのは、決してずるくないと思いたい。
渚や風太たちは今日の部活を休んでいて、家のことを分担してやっている。
大河くんは自宅には戻らず、千波と雷太が手伝いを学ぶサポートをしてくれているらしい。
妹と弟たちが、どんどん頼れる存在になっていることが嬉しい。
でも、少しの寂しさも感じる。
もしかすると、私は〝頼られる自分〟を心の支えにしていた部分があるのかもしれない。
そんな会話を交わしながら、渚の思いにじーんとする。
卵粥もすりおろしリンゴも美味しく完食し、私はそれからしばらく眠っていた。
汗をかいて少し熱が下がったのか、体のだるさがやわらいでいた。
瞼の向こうで西日らしい光が差し込んできて、もう夕方だと気付いた瞬間。
額にひんやりとした冷たい手が置かれる。
【第16話へつづく】

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!