第15話

優しさがしみる
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2021/01/30 04:00 更新
家まで送り届けると言う椿先輩の申し出を断って、私は帰ってきた。


昼食の後から少し体調が優れない。

豊橋 七海
豊橋 七海
(何だろう、胸焼けみたいな……。体もだるいし……)

きっと慣れないことをしたからだろう。


母は地域の懇親会に出かけていて、渚と風太は部活、千波と雷太も近所の家に遊びに行っている。


いつも夜は賑やかな家に、珍しく私はぽつんとひとりだった。


豊橋 七海
豊橋 七海
(先輩は、いつもこんな風なんだ)

ショッピングバッグから買ったばかりのワンピースを取り出して自室の壁に掛け、いつも通りの家事をこなしていく。


掃除機がけは、平日できないところまで念入りに。


朝のうちに干しておいたシーツと枕カバーを取り込んで、各々の部屋にセッティングする。


明日は休ませてもらうのだから、今日のうちに済ませておきたい。


そんな思いで頑張っていたら、夕食後、私は体調を悪化させてしまった。



***



渚
お姉ちゃん、体調どう?
風太
風太
今日、水族館行けそう?

翌朝、渚と風太が心配して様子を見に来てくれた。


二人の声で起きるまで、目覚まし時計の音にも気付かず、ぐっすり眠り込んでいたようだ。
豊橋 七海
豊橋 七海
うーん、まだ体がだるいかも……
渚
えっ、顔真っ赤! ちょっと熱はかって!

そう言って渚が体温計を持ってくる。


その後、音が鳴ったのを確認すると、38.3度の表示が見えた。
豊橋 七海
豊橋 七海
あれ……?
渚
あれ? じゃなくて。
休んでなきゃだめだよ
風太
風太
俺たちが大河くんに言っておくから
豊橋 七海
豊橋 七海
でも……
渚
元々、今日は私たちみんなで家のことするつもりだったし。
お姉ちゃんは寝て治すことに集中!

弱っている時は、家族の優しさが身にしみる。


私は頷き、もう一度ベッドに横になった。



***



その後迎えにやってきた大河くんは、渚たちから事情を聞き、日を改めてほしいと頼まれたらしい。


私の部屋まで、不安そうな表情を浮かべて様子を見に来た。
豊橋 七海
豊橋 七海
ごめんね……。
せっかくの水族館だったのに、まさか熱を出すなんて……
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
気にしなくていい。
寒くなってきたし、日頃働き過ぎたんだろ。
俺はいつでも行けるから

熱があるからか、そう言っている大河くんが優しくてかっこいい人に見えてしまう。

豊橋 七海
豊橋 七海
(あれ……? でもよく見たら本当にかっこいいかもしれない……)

ぼーっと大河くんを眺めていたら、彼はふと視線を外して壁に掛けてあったワンピースを見つけた。


昨日、椿先輩と買い物に行く前に遭遇しているから、理解するのに時間はかからなかったようだ。
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
……なあ、今日あれ着ていくつもりだったの?
豊橋 七海
豊橋 七海
……うん。
昨日買った
一ノ瀬 大河
一ノ瀬 大河
そっか

大河くんの言葉は少ないけれど、表情は雄弁だった。


珍しく、とても嬉しそうな顔をしていた。


いつも近くにいるいとこだから、分かる。

豊橋 七海
豊橋 七海
(でも、椿先輩に選んでもらったとは、なんか言いづらい……)

言わなくていいことを心の中にしまうのは、決してずるくないと思いたい。



渚や風太たちは今日の部活を休んでいて、家のことを分担してやっている。


大河くんは自宅には戻らず、千波と雷太が手伝いを学ぶサポートをしてくれているらしい。
渚
お姉ちゃん、卵粥食べる?
豊橋 七海
豊橋 七海
食べる……
渚
味は保証できないけど、愛情は込めたからね。
今大河くんが千波とリンゴのすりおろしをやってる

妹と弟たちが、どんどん頼れる存在になっていることが嬉しい。


でも、少しの寂しさも感じる。


もしかすると、私は〝頼られる自分〟を心の支えにしていた部分があるのかもしれない。
渚
お姉ちゃんもさ、たまには私たちに甘えなきゃ。
好きな人ができたら、家のことほっぽってでも会いに行かなきゃだめだよ
豊橋 七海
豊橋 七海
え? ふふっ、何それ。
面白い冗談だね
渚
冗談で言ってないから

そんな会話を交わしながら、渚の思いにじーんとする。


卵粥もすりおろしリンゴも美味しく完食し、私はそれからしばらく眠っていた。



豊橋 七海
豊橋 七海
ん……

汗をかいて少し熱が下がったのか、体のだるさがやわらいでいた。


まぶたの向こうで西日らしい光が差し込んできて、もう夕方だと気付いた瞬間。


額にひんやりとした冷たい手が置かれる。



【第16話へつづく】

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