目黒side
朝ごはん食べてたら、誰かが横の椅子を引いて、隣に座った。
声的に判断すると、きっと阿部ちゃん。
そう、実は俺は2週間に1回通院することになってる。
縁内障の進行具合や、服用してる薬がちゃんと効いてるかとかの確認をするため。
俺は阿部ちゃんに誘導されるまま、外に出て車へ乗り込んだ。
隣の運転席には阿部ちゃんが乗って、エンジンをかける。
それから病院まで車で行き、阿部ちゃんに中までは誘導してもらった。
診察室には1人で入って阿部ちゃんには待合室にいてもらった。
お医者さんが何て言うか分からない以上、阿部ちゃんには冷たい事実を直接聞いてほしくなかったから。
でも検査結果は悪くはなかった。
だからといって良いわけでもなかったけどね。
結論を言うと、縁内障の進行は薬で防げていて、悪化はしていなかった。
でも視力の回復は見られなかった。
だから効果の強い薬に変えるって。
そりゃ視力は戻って欲しいよ。
でも‥‥副作用の強い薬はできるだけ服用したくないんだ。
俺は顔を上げ、今の俺なりの全力の笑顔で、
と阿部ちゃんの顔もしっかり見えないけど、しっかりと言葉で伝えた。
佐久間ver
目黒side
俺は病院から帰って、お昼ご飯を食べてから縁内障の薬を飲んだ。
飲めたとこまでは良いんだけど、それから30分もしないうちに副作用が俺を襲ってきた。
この薬の副作用は吐き気や目眩など激しいものばっかり。
実際に今、その吐き気と目眩に襲われて1人で苦しんでる。
阿部ちゃんもさっき仕事へ行っちゃったから今はこんな大きい家に俺ただ1人。
でも佐久間くんが2時ごろ帰ってくるって。
スマホを目に極限まで近づけて時刻を確認する。
縁内障になったことをきっかけにホーム画面にはデジタルの時計を表示するようにした。
えっと‥‥今は12時50分。帰ってくるまでは1時間ちょっと。
急に激しい吐き気が来て、トイレまで走る。
でも弱視のせいでよく回りが見えない。長い間住んでるシェアハウスだけど、視界が良くないとなかなか分からない。
誘導してもらえないから、壁を伝いながらトイレまで急いだ。
薬の副作用に耐えきれず、お昼ご飯を戻してしまう。
出すものを出しきった俺の体は、しばらく続く苦しい吐き気に空を仰いで耐えることしかできなかった。
俺はそのままトイレに座り込み、何分も、何十分も吐き気と戦った‥‥。
佐久間side
ねぇねぇみんな聞いて!今日の収録30分も早く終わったの!
さっき阿部ちゃんから今めめ家に1人だからって連絡来たんだ。
で、俺っちめめが心配すぎて一番にスタジオ出てきちゃったよ。
ちなみに今タクシーでシェアハウスまで直帰するところ!
あれ、返事がない。
めめ寝てるのかな。まさかだけど階段から落ちて倒れてるとかないよね!?
耳をすましてみれば、小さいけどめめの声が聞こえてきた。
声のしたところは1階のトイレで、そこには苦しそうにうずくまっためめが。
水飲んだら今よりはすっきりするんじゃないかって思って、冷蔵庫から1本のペットボトルを取ってめめのとこまで戻ってくる。
それからめめは、しばらくトイレで吐き気と戦った。
俺も背中擦ったり、水飲ませてあげたり、できることには全力を尽くしたつもり。
そして吐き気がおさまってきた頃、めめはもう疲れのあまり脱力していた。
2階から布団を持ってきて、リビングの横の部屋に敷いた。
あとはめめをここまで誘導してくるだけ‥‥!
でも俺っちどうやって誘導するのかやり方知らないや。
どうやるんだろ?めめに聞いた方が早いか。
ぎゅっ。
誘導のやり方を聞こうとしたら、ふらふらと立ち上がっためめが俺っちの肩を優しく掴んだ。
これで、このまま進んで良いってこと?
ものの数分でめめは寝た。
副作用よっぽどつらかったんだなぁ‥‥。
しかもこれからこの薬使うんでしょ?めめすごい大変だ。
でも早く見えるようになって欲しい。
お互いの顔見合って、楽しい時は思いっきり笑い合いたいし、悲しい時だって慰め合いたい。
俺は寝ているめめの頭をそっと撫でた。
次はゆり組で書きますっ!!お楽しみに✨
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。