Side小川
わかるのはトキの鼓動と、呼吸音だけ。
今ここにいるっていうことだけ。
そう言ってトキはリュックを右手で持った。
気が付けば空いた左手は俺の手を握っている。
横を向けばトキの綺麗な横顔が映る。
なにこれ、夢?
俺今日死ぬの?
ひんやりして大きなトキの手が、
俺の手を包んでいるのが不思議でしょうがなかった。
いつもは俺が強引に握っているだけだったから。
本能的に指を絡ませれば、
トキは驚いたように目を見開いた。
目が合う。
しばらくすればふふっとかすかに笑って握り返してくれた。
…スパダリかよ。
こんなつもりじゃなかった。
もっと俺がリードする予定だったのに。
自分の耳まで真っ赤になっているのがわかる。
やばい。逃げ出したい。
俺っていつもこんなんトキにやってたのか。
出待ちのファンからギリ見れないぐらいの距離で
するりと俺の手から離れる。
トキは俺の前に進んで色んな人にサインや写真を撮り始めた。
「心配しなくても大丈夫だよ。」と言っているように
にっこにこで対応していた。
わずかな時間でできるだけ話してる。
そうだよな。こいつ別に人見知りじゃないし。
すぐ初対面と仲良くなるし。
俺もボールやら国旗やらにサインしていく。
マッキーペンや他人のスマホを持っても
俺の手に残るのはあの感触。
大急ぎでボールにサインを書いていく。
「鴇崎選手、応援してます!」と言われて
嬉しそうに「頑張ります!」と答える。
その笑顔は俺に向けられていないけど、
なぜか俺の心は満足していた。
一緒にバスに乗り込む。
もう他の選手たちは全員乗っていたみたいだ。
座席がもう全部埋まっていて隣に座るしかない状況だった。
やっぱり少し狭かったけど、近くにいれることがただ嬉しかった。
数センチ先にはトキの手がある。
今まで何も考えず繋いできたけど、すごく恥ずかしく思えてくる。
どうしようかと膝の上で手を握ったり開いたりしていれば、
上から手を重ねてきた。
じゃあ、とぴったり手を合わせれば露骨に違いが出た。
今度はトキから指を絡ませてきた。
幸せそうににこにこ笑っている。
その顔が可愛くて見ていたけど、
後ろでものすごい形相の人達の顔が目に入った
目は口ほどにものを言うの典型的な例。
ていうかそんなこと言ってる場合じゃない。
この顔面国宝人誑しをどうしよう。
さっきからずっと俺の顔見てにこにこしてるぞコイツ。
なんだよこっちも照れるだろうが。
…これって付き合ってるって言えるやつ?
告白はさせたけど…ん?あれって告白なん?
だめだ。明言させないと疑問点が一生浮かぶ。
どっちにしろ好都合。
こんな自分から仕掛けてくれるぐらい余裕ができたんなら
もう遠慮しない。
言い逃れなんて絶対させてたまるか。
最後まで責任取ってくれよ、
トキ。
これまた投稿頻度激低ですみません。
リアルが充実しすぎてフィーバーしておりますわ
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!