第6話

コンビニ_#5
677
2022/07/06 20:06
アマル
ザーザーと、雨が降り頻る中、俺は呆然と、家の前で立ち尽くして居た。
母が持っていた車は無く、家の中の電気も全て消えている。
あぁ、もう俺には居場所は無いのか。

_と半ば絶望感に浸っていた俺は、隣の家の扉が開くことに気付かなかったんだろう。
ぷりっつ
…アマル?
ビクッと身体が震える。
…これは気温の所為にしよう。
アマル
あぁ…ぷりっつか
ぷりっつは勢いよく乱暴に玄関の扉を閉め、俺の方にやって来ては傘を翳す。
ぷりっつ
どうしたんだよ、アマル…
俺はその問いに答えることができなかった。
ぷりっつ
…家、追い出された?
5分くらい無言の空間が時のみ進める中、沈黙を断ち切ったのはぷりっつの方。
あながち間違っては無いのだが…俺はまぁ、捨てられた部類に入ると思う。
俺は一言、「捨てられた」とだけ返した。
ぷりっつ
…そうか
ぷりっつは少し考え込んだ後、パアッと顔を輝かせて大声で提案をしてくる。
ぷりっつ
とりまコンビニ行こ!俺行く途中だったんだ!
アマル
う…うん
俺は流されるまま、ぷりっつに付いて行った。
さっきよりも雨が強くなった中、ぷりっつの方を見る。俺より5cm程身長が高いぷりっつは、真っ直ぐと視線を前に向けている。

__ふと、ぷりっつの肩に目をやる。
すると、ぷりっつの肩が濡れていた。
俺は直ぐに傘から出て、ぷりっつが入れるように俺が横にズレる。
その行動に気がついたぷりっつは、俺に話しかけて来た。
ぷりっつ
は?え、何?
アマル
え、いや…肩とか髪とか濡れてるし…
ぷりっつ
…なぁアマル、知ってたか?
アマル
え何?
ぷりっつ
相合傘で片方の人が濡れてるって言うのはなあ…
アマル
うん
ぷりっつ
…やっぱ辞める。恥ずい
アマル
ぷりっつは、これから知れると言う所で会話を止めてしまった。

それからぷりっつは頬を少し赤らめて歩いていた。
…寒いなら傘に入れば良いのに。
そんな事を考え、俺らはコンビニに入った。
アマル
…ぷりっつ大丈夫?寒くね?
コンビニに入って開口一番、俺はそう口にする。
いやぷりっつだって肩とか髪めっちゃ濡れてるんだよ?寒そうじゃん。
ぷりっつ
いや、大丈夫
ぷりっつ
…っくしゅ!
説得力ねぇなこいつ…などと思っていたら、視界には居ると思っていなかった人物が映り込んでいた。
アマル
…案内さん?
その人物は、俺が声を掛けると直ぐに此方を振り向き、相槌を打つ。
案内
よう、アマル
アマル
どうも……あれ、其方の方は…?
案内
あ、こいつはs…
しょうじ
しょうじでーす!!
成程、案内さんに似て五月蝿い人だな。(失礼)
アマル
どうも、アマル俺って言います
しょうじ
アマルくんね!
学年は?
アマル
一年です
しょうじ
一年かぁ…
案内
此奴今なんか妄想してるから
しょうじ
してないけど
案内
じゃあなんで天井見上げてんだよ
しょうじ
気分だよ
案内
頭おかしいって此奴
アマル
…ww
三人で談笑して居たら、ドンッと誰かにぶつかった音がする。
mob
ッチ…何処に目ぇ付けてんだ!
…怖。
その人の顔を見て、恐怖で咄嗟に顔を伏せる。
……父さんが俺を殴ろうとする時、怒りを表した時に父さんが作るあの表情。
俺はあれがトラウマに成り得る程嫌だったんだ。
mob
おい聞いてんのか!
しょうじ
まぁまぁ…此処コンビニですよ?
mob
あ?
案内
今の光景だったら、おじさんがただ怒鳴り散らしてるだけになると思いますよ
mob
……ッチ
男はその二人の発言を聞き、ふらふら歩いて帰って行った。
俺は二人に飛びついて、「ありがとうございます」とだけ発言する。

案内さんは無言で頭を撫でてくれて、しょうじさんは「大丈夫、大丈夫」と俺の背中をさすってくれた。
…ぷりっつの事を今思い出した俺は、はっと我に帰り二人から離れる。
アマル
ぁ…すいません
しょうじ
気にしなくて良いよ…ねぇ、君と一緒に入って来た子が後ろに居るけど?
アマル
ぁ…え、っと、ありがとうございます?
案内
早く行ってこいよ
アマル
…はい、!
俺は二人にお辞儀をして、後ろに視線を回す。
ぷりっつが、怪訝な顔付きで俺を見つめていた。
ぷりっつ
俺買いたい物決まっけど、何か買う物ある?
急に発せられた言葉に対して、俺は何とも言えない気持ちがあった。
アマル
……多分?
ぷりっつ
なら会計済ませてくるな
そう言うとぷりっつは会計レジの方に足を動かせた。
俺は急いでその後を追う。
アマル
…怒ってる?
ぷりっつ
…何が?
アマル
…いや、来た時と何か…違うなって?
ぷりっつ
…気のせいだろ
ぷりっつは俺との目線を外して、カゴを店員に渡す。
先に案内さんとしょうじさんに改めてお礼をしようと思って、さっき二人が居た場所へと戻る。
二人はまだそこに佇んでいた。
アマル
あ、あの?
案内
おー…どした?
アマル
あ、いや、さっきはどうも
と、俺は二人にまた一礼した。
しょうじ
いやいや、気にしなくて大丈夫だよ?
案内
そうそう
すげぇなぁ…って思ってたら、ぷりっつの会計が終わるのを視界の隅で確認できた。
俺は二人に、「また学校で!」と一言言って、ぷりっつの方へと小走りで向かった。
アマル
ぷりっつ…早い…
だが、俺が走ってもぷりっつには3歩くらいの歩幅の空きがある。
いつもより歩くのが早い。

コンビニから出ると、ぷりっつは無言で俺に傘を渡して来た。
一瞬躊躇うも、俺は直ぐに傘を広げて、ぷりっつに差し出した。
ぷりっつ
は?
アマル
え?
ぷりっつ
いや…アマルが持てよ
アマル
え、ぷりっつ、傘が開かなくて俺に渡したんじゃねえの?
ぷりっつ
バカじゃん
アマル
は?
俺の勘違いかよ…と内心呟く。
するとぷりっつは諦めて俺から傘を取って、俺の体を引っ張って無理矢理中傘に入れた。

なんか…引っ張られた時、ぷりっつの体当たっちゃったんだけど……。
もどかしい気持ちのまま、俺らは歩き出した。

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