「そういえばお前、ウォーロックを殺したいって言って、誰を殺せばいいか分かってるのか?」
日の沈みかける頃、やっと針に糸を通せたらしいシルラが玉結びを頑張りながら聞いた。
「ウォーロックを殺せばいいんじゃないですか?」
他に誰を殺すと言うのか。
「一人一人、か?」
「違うんですか?」
「簡単な事だ、呪いを広めているやつを殺せばいい」
「呪いを広めているやつ?」
「呪いを使う人間をウォーロック、魔法を悪い方に煮詰めていったものを呪いと呼ぶ。そして、代々呪いを受け継いでいる家系がフルーフ家だ」
「名持ち、ですか」
ここ、ルルシェラ王国に於いて、名字を持っている人間というのは限られる。国王か、どこぞの領主か、いずれにしろ身分が高い者しか名乗れない。
ノアたち平民はまず名字など持っていないのだ。
ああ、とシルラが頷いた。
「500年か幾らか前、エアルフ・フルーフという優秀なメイジがいた。しかし奥方を亡くし、嘆き悲しんだエアルフは、魔法を暴走させてしまった。
それは殺傷性が高く、使用人が大勢死んだ。
それを見ていた息子が使える、と思ったんだか知らんが、それを完璧に習得し、父親を殺し、邪魔者を殺し、他にも殺人衝動のあるやつに呪いを広め、ウォーロックと呼ばれる者が生まれた———というのが呪いの発祥と言われている。本当かは知らんがな」
「では、そのフルーフ家とやらの人間を殺せばいいんですね」
ノアが言うと、シルラがフン、と鼻で笑った。
「簡単に言ってくれる」
あれ、とノアは思った。
「でも、呪いが広まってしまったのでは、広めている人を殺してもウォーロックは全滅はしないのでは?」
「呪いを使うというのは人を傷つける分、使う人間にも相当負担がかかる。だから、ウォーロックになったやつはなってからせいぜい5、6年しか生きられない」
「フルーフ家の人は違うんですか?」
「フルーフ家の人間はもう千年くらい呪いを使っているから、耐性が出来ている。」
「そうですか」
さっさと死ねばいいのに、とノアは少し思った。
「フルーフ家現当主のエルバは特に強力な呪いの器でな、フルーフ家の人間でも1日ぶっ通しで戦ったら流石に疲れるが、エルバは2日間ずっと嬉々としながら呪いを連発してきやがった」
シルラが一瞬だけ塵を見る目をしたのをノアは忘れようと思った。
「会ったこと、あるんですか?」
ああ、とシルラは言って、成功した玉結びをキュッと引き締めようとした時、針穴から糸がスルッと抜けた。
「あ」
流石に可哀想だし居候してるだけだし、今日の晩ごはんは僕が作ろう、とノアは思った。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。