圧紘さんのそんな声が聞こえて飛び起きた。
反射的に相棒に手が伸びる。
——でも、どうやらそれは違うらしい。
古いソファの上で、圧紘さんが呻き声を上げていた。
……幻肢痛、か。
圧紘さんに義手がついたときにブローカーから聞いた、欠損を負った人に出る症状。
ないはずの腕が痛む、そういう後遺症らしい。
相棒から手を引いて、圧紘さんが横たわるソファの前に膝をつく。
ブローカーが言っていた、対処法。
こればっかりは、薬では解決できない痛みらしい。
痛みに悶える圧紘さんに寄り添って、声をかけた。
苦しむ間で呼ばれた名前に、返事をした。
左手を握る?
それで圧紘さんが楽になるなら、と迷う暇すらなく両手で包む。
金属の冷たい感触。
温かみが無くなった、それでも、圧紘さんの腕。
あなたの左腕も、私も。
そんな言葉は口に出さず、そっと指の力を強める。
小さく、握り返されるのを感じた。
圧紘さんの呻き声は短く切れて、徐々に呼吸だけになっていく。
ふー、ふー、と、深く呼吸をする音が、部屋の中を満たしている。
小さく息を吐いて、圧紘さんはへらっと笑う。
そんなことを言いながら、少し手を握る力が緩む。
そう訊くと、もう少し、とだけ言われる。
しばらくすると、圧紘さんはまた眠ってしまった。
……頭に触れられた感覚がして、すぐに目を覚ました。
戦闘体制を取ろうとしたところで、ゆっくり動く手が前髪を梳くみたいに触れていることに気づく。
ゆっくりと目を開けば、こちらを覗き込む圧紘さんの顔。
少し癖のある黒髪が、薄暗がりに馴染んでいる。
いつのまにか、圧紘さんが寝ていたはずのソファに、私が寝ていた。
いつもよりも柔らかい声で、訊かれる。
思った以上に寝ていたらしい。
少し、掠れた声が出た。
圧紘さんは少し黙って、左手で私のでこを撫でる。
金属が、少し冷たい。
何か言おうとして、やめた。
頷くだけにした。
冷たい金属の手。
それでも、圧紘さんの手。
指先が、するすると私の顔を滑っている。
そんなことを呟いて、天井に視線を移す。
——あのヤクザ、腕一本分のツケは絶対に払わせてやる。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。