独房に戻って、しばらく経った。
壁も、床も、音も、いつもと同じだ。
変わったのは、私の持ち物が増えたことだけ。
座り込んで小窓を見上げれば、鬱陶しいほどの青空が覗いていた。
圧紘さん、スピナーくんは生きてる。
その情報を反芻して、弔くんとトガちゃん、荼毘くんの死を感じた。
そっかぁ……みんな、好きだったんだけどなぁ。
そんなことを思って、ノートを開く。
最後に書いたページには、連合での日常が記されていた。
なんでもない日のことから、面白かったこと、苦しかったことまで、全部。
検査されたってことは、これも全部見られたのかなぁ。
まぁ、返ってきたから良いのだけれど。
一ページずつ、時間をかけて遡っていくたびに、みんなとの会話を思い出す。
中でも、圧紘さんとの記憶は鮮明だった。
私に綺麗なものを教えてくれた、一番大事なものをくれた、おもしろくて、大切な人。
真面目なことの話から、軽口を言い合うようなちょっとした会話、日常的に見せてくれるタネのわからないマジックまで、全部を覚えている。
ノートの一番古いページは、私が逃亡生活を始めた日のこと。
少し震えた字で、紙に血が滲んでいる。
今も左手に残る火傷跡の、血液。
あれは……痛かった。
拝啓
背骨のない正義へ
あなたの“背骨”は、どんなものですか?
そんな言葉が、書いてある。
逃げながら、ずっとずっと、問い続けていたもの。
答えは、誰も持っていなかった。
誰も知らなかった。
答えられなかった。
背骨のない正義なんてものは、多くの違った意思で積み上げられたものだったから。
意思を持つものはいても、その集合の背骨を知る者は、誰一人としていなかった。
当然の結果である。
もとより、わかりきっていた。
それでも、私は答えが知りたかった。
知らないまま、その背骨のない正義に縛られることに、裁かれることに、心底嫌悪感を感じていた。
否、今も感じ続けている。
だから、問うた。
そして今も、同じように。
あなたの“背骨”は、どんなものですか。
そう書いた文字を指でなぞりながら、考える。
この手紙に続きを書こうと思い立って、鉛筆を手に取る。
久しぶりに握ったそれは、やけに重たい。
でも、新しいページに文字を記す手は、やたらと滑らかだ。
——敬具












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。