第16話

#とんでもない嘘の話 ②
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2020/01/26 19:17
弟は香水なんてする事は無いようだったが、その内するようになるのだろうか。


(まぁ、四ノ宮さんがあれだけ上品ならするようになるか…)



『ブォォォンッ』

ドライヤーの温風が吹く中、天野くんが鏡越しに私を見ながら口を開いた。
天野 カエデ
手慣れてるねぇ。
あなた

少しだけ、毎朝、人の髪をいじる期間があって。

天野 カエデ
へ〜、彼氏?
あなた

まさか。そんな訳無いじゃないですか。

天野 カエデ
あらら、あなたちゃんモテそうなのに。
あなた

いえ、無いですから、そういうの。

天野 カエデ
え、何で?こんなに可愛いのに?
鏡越しに天野くんと目が合うと、

私をがっちりと天野くんに捕まえられたかの様に上手く逸らせなくなる。


(またこの人はこういう事を言う…)

あなた

可愛いは嘘です。

天野 カエデ
えー、嘘じゃないって。
あなた

もっと可愛い子が私の周りにはいっぱい居るので、そちらに言ってあげてください。

ふと、今自分が言った事に冷静になって考えてみる。


女子高生に「可愛い」と言って近づく男。


(…)


あまりいい絵面ではない事に途中で気づいた私は、
あなた

…って、なんかそれも危うそうですけど。

と、自分で口にしたくせに撤回じみた事を付け足す。


(それでも、世間は美男子なら良いと、許しちゃうか。)
天野 カエデ
『危うい』?何処が?
あなた

え、そりゃ女子高…


(まずい!)


自分が大学生だと嘘をついている事をすっかり忘れていた。

うっかり、


「そりゃ女子高校生に『可愛い』って言いながら近づくのは、天野くんでも流石に捕まりますよ」


なんて、口走りそうになってしまった。


(危ない危ない…)


どちらかというと、

ここで働いてお金を貰っている年齢詐称の私の方が捕まりそうだ。
あなた

……やっぱり、何でも無いです。

天野 カエデ
えぇ、言いかけて止めるの? 俺、超気になるんだけど。
あなた

大した事でも無いので。さっさと忘れて下さい。

天野 カエデ
うわぁ…それ、俺だけ気になるやつじゃん。あなたちゃんは良いよね、考えなくて済むから。
あなた

天野 カエデ
俺、今日1日、ずっとあなたちゃんの事を考えて過ごさないといけなくなっちゃうんだけど。
あなた

私の事?

天野 カエデ
そう、あなたちゃんで頭いっぱいになりそう。

(またこの人は…)


しれっと口説き文句の様な事を口にするが、もしかして将来はホストにでもなるつもりだろうか。


(でも、天野くんなら普通に食べて行ける…てか、大儲け出来るだろうな…)

あなた

忘れたら考えなくて済みますよ。

天野 カエデ
そう簡単に忘れられる訳ないでしょーが。
あなた

天野くんは忙しいから、すぐに忘れられるでしょ。安心して下さい。

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