弟は香水なんてする事は無いようだったが、その内するようになるのだろうか。
(まぁ、四ノ宮さんがあれだけ上品ならするようになるか…)
『ブォォォンッ』
ドライヤーの温風が吹く中、天野くんが鏡越しに私を見ながら口を開いた。
鏡越しに天野くんと目が合うと、
私をがっちりと天野くんに捕まえられたかの様に上手く逸らせなくなる。
(またこの人はこういう事を言う…)
ふと、今自分が言った事に冷静になって考えてみる。
女子高生に「可愛い」と言って近づく男。
(…)
あまりいい絵面ではない事に途中で気づいた私は、
と、自分で口にしたくせに撤回じみた事を付け足す。
(それでも、世間は美男子なら良いと、許しちゃうか。)
(まずい!)
自分が大学生だと嘘をついている事をすっかり忘れていた。
うっかり、
「そりゃ女子高校生に『可愛い』って言いながら近づくのは、天野くんでも流石に捕まりますよ」
なんて、口走りそうになってしまった。
(危ない危ない…)
どちらかというと、
ここで働いてお金を貰っている年齢詐称の私の方が捕まりそうだ。
(またこの人は…)
しれっと口説き文句の様な事を口にするが、もしかして将来はホストにでもなるつもりだろうか。
(でも、天野くんなら普通に食べて行ける…てか、大儲け出来るだろうな…)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。