朝。
学校の昇降口で、恵麻が靴箱を見ながら
突っ立っていた。
私がそう言って話しかけると恵麻は、肩を
「ビクッ」と震わせた。
恵麻はそう言って、靴箱の扉を「バタン!」と
勢い良く閉めた。
良かった。いつもの恵麻だ。
私はそう思って、視線を下に落とした。
突然、私の視界に入った物。
信じられなかった。
恵麻の上履きが、凄く汚かった。
落書きもされている。
“バカ”
“シネ”
“クズ”
どれも、傷付く言葉だった。
恵麻はそう言って笑った。
まるで、何もないかのように。
完璧だった。
本当に、そう思わせるような笑顔だった。
完璧な、笑顔だった。
恵麻はそう言ってまた、あの完璧な笑顔を
浮かべた。
これじゃ、何て反応したら良いか
分からないじゃん。
どうしよう。
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周りから、笑い声が聞こえる。
醜い、醜い、笑い声。
私の机に、落書きがされていた。
どれも、傷付く言葉だった。
私はそう言って笑う。
こう見えて、演技は得意なんだ。
心から笑っているような、そんな顔をする。
そんなの、簡単じゃない。
口角を上げて、少しだけ首を傾け、目を細める。
ほら。簡単だよ。
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クラスメイトはそう言って、ボロボロの私を
嘲笑った。
九条愛里。
昨日、この学校に転校してきた転校生。
クラスメイトにどうやって取り入ったか知らない
けど、私はこいつのせいでこんな
ボロボロになった。
放課後、私は碧衣に嘘を付き先に帰らせ、
私の上履きや机に落書きした人物を探した。
その結果がこれ。
クラスメイトはそう言って、私を蹴る。
九条はそう言って、笑った。
意味が分からない。
九条はそう言って、私を蹴る。
私はそう言って笑う。
私はそう言って、さっきの九条みたいに
笑いかける。
殴られた。
ねぇ、私、笑ってるけど、痛いんだよ?
クラスメイトがそう言って九条に渡した物は、
カッターナイフだった。
“良いの”って...
黒いなぁ...
九条はそう言って、カッターナイフを降り下ろす。
あーあ。痛いだろうな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。