部活終わりに直井コーチが部室に来た。
珍しいな。
そう言われて紙袋を直井コーチから受け取った。
俺はその場で中身を確認した。
中には真新しい音駒のバレー部のジャージやTシャツなどが入っていた。
あなたの名字喜ぶだろうな。
俺は自然と口元が緩んだ。
俺は少し急ぎ気味に部室を後にし、体育館に向かった。
これを受け取ったらあなたの名字はどんな顔をするだろうか。
きっと喜ぶだろうな。
あなたの名字の笑顔を想像しながら、いつも通り体育館の出入口であなたの名字が出てくるのを待った。
しばらくしてあなたの名字が出てきた。
そして、早速ジャージ類が入った紙袋を手渡した。
あなたの名字は紙袋に手を入れて中に入っているものを取り出し、目をまん丸にした。
「NEKOMA」とロゴが入った真っ赤なジャージをまじまじと見ていた。
すると予想外のことが起きてしまった。
なんとあなたの名字がボロボロと大粒の涙を流していた。
俺はギョッとした。
俺はその言葉を聞いて、あなたの名字と初めて会った時から今日までの1ヶ月を思い出した。
恐らく昔から陸上やってきて、王者になって、周りから恐れられる選手になり、まだまだ跳びたいのに、これからって時に怪我で叶わなくなり、急に何も無くなってしまった自分に新しくバレー部という居場所を見つけた。
そしてこの1ヶ月、あなたの名字は自分なりに一生懸命にやっていた。
そしてその姿は何より傍から見ても楽しそうだった。
ジャージを抱きしめながら子どもみたいに泣きじゃくるあなたの名字を俺は無意識に腕を引いて抱きしめた。
部活終わりの生徒たちがちょいちょい俺たちの背後を通過していく。
俺はあなたの名字の頭もポンポン撫でながら、泣き止むまで何もしゃべらず、あなたの名字の体温だけ感じていた。
ビックリした…
いきなり黒尾くんに腕掴まれてすっぽりと優しく包まれた。
その優しさに余計に涙が出る…。
「好きなだけ泣けばいい」
私は黒尾くんの胸を借りて泣いた。
今までのいろんな思い出が走馬灯のように脳内を駆けていった。
初めて高跳びでバーを越えた時…
初めて空がこんなに綺麗なんだって思えた時…
初めて出た大会で優勝した時…
初めてできなくて、今までの自分を超えれなくて悔しくて泣いた時…
初めて全国優勝した時…
そして…
怪我をして高跳びを諦めなければいけなくなった時…
その瞬間、自分の中が空っぽになった時…
でも…
でも…
「バレー部のマネージャーやらね?」
その黒尾くんの一言に私はまた夢中になれるものに出会えた。
そして、今まで個人技だった高跳びから、チームで高みを目指すバレー部の仲間になれた証が、私にとってジャージを受け取ったこの瞬間。
黒尾くん、ありがとう。
感謝しかないよ…。
翌日…
部活の時間になり、私は体育館に向かった。
更衣室で制服を脱ぎ、バッグから昨日黒尾くんから受け取った真っ赤な音駒ジャージを取り出してその場で1回広げて眺めた。
初めて袖を通す。
そして鏡を見た。
とってもワクワクした気持ちになった。
私は更衣室を出てみんながいる体育館に向かった。
ちょっとなんか緊張する…。
夜久くんと、海くんが一番に声をかけてくれた。
その時、黒尾くんが体育館に入ってきた。
私を見るなり、少し固まり、そしていつも通りニヤッと笑った。
今日も音駒バレー部の練習が始まる。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。