────春。
まだ硬い、真新しい制服を身にまとい、僕は教室に入る。
少し来る時間が早くなってしまったのでクラスには誰もいないと思っていたが、その予想ははずれ、一人の生徒が席に座っていた。
あちら側も僕の存在に気づいたのか、目線をこちらに向ける。
吸い込まれそうな碧い瞳。さらさらと春風になびく、黒く艶のある髪の毛。
女子として見ればガッチリしているが、
男子として見れば細い体型。
男子か女子か、よくわからない。
クラスでも少し浮いてる存在だった。
段々と仲のいいグループが決まっていく中、この人は誰一人と仲良くしようとはしないのだ。
まあ別に、僕には関係がないこと。
視線を他に移し、自分の席へと向かう。
そよそよと春特有の生ぬるい風が僕の頬を撫でる。
桜の花弁がひらりと校庭に落ちていく。
─君のことは、
まだ知らない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。