第16話

保健室で三角形
3,595
2021/07/23 04:00
突然の藤間くんの来訪に驚いて、名前を呼ばれたけれど返事をすることが出来ない。
しかもここには、河内くんもいる。

出ていけるわけがない。
葉山 日菜
葉山 日菜
(居留守を……)
藤間 修
藤間 修
いるのは分かってるけどな。影、見えてるし
葉山 日菜
葉山 日菜
隣にいる、河内くんを見る。
葉山 日菜
葉山 日菜
(影って……、ふたり分?)
そうだとしても、男子と一緒だとは思っていないのかもしれない。
葉山 日菜
葉山 日菜
い、今、着替え中なの。入ってこないで
震える声で嘘をつくと、ベッドについていた手が、ギュッと握られた。
葉山 日菜
葉山 日菜
えっ……
河内 恭介
河内 恭介
しー
河内くんが小声で、唇に人差し指を当てている。
藤間 修
藤間 修
分かった。そのままで聞いてろ
葉山 日菜
葉山 日菜
(私、どっちにドキドキしてるんだろう……)
葉山 日菜
葉山 日菜
(心臓、さっきからうるさい)
藤間 修
藤間 修
……悪かった
葉山 日菜
葉山 日菜
藤間 修
藤間 修
日菜が当たったボール、俺が投げたやつだから
藤間くんが、謝った。

昔は、謝るどころか、私のことばかりいじめていた人が。
葉山 日菜
葉山 日菜
……
藤間 修
藤間 修
日菜、聞いてるか?
葉山 日菜
葉山 日菜
う、うん、聞いてる
葉山 日菜
葉山 日菜
いいよ、わざとじゃないんでしょ。わざわざ、ありがとう
手を握る力が、強くなった。
藤間 修
藤間 修
日菜、俺さ
葉山 日菜
葉山 日菜
え?
藤間 修
藤間 修
あ、いや……。あのさ、もう大丈夫か?
藤間 修
藤間 修
どうせ方向一緒だし、俺が送って──
繋いだ手を引いて、河内くんがベッドから立ち上がる。
葉山 日菜
葉山 日菜
あっ……!
またたく間にカーテンの外に連れ出されてしまい、呆気あっけにとられている藤間くんと目が合った。
藤間 修
藤間 修
お前、なんで
河内 恭介
河内 恭介
葉山は、俺が送っていくからいいよ
藤間 修
藤間 修
なっ……
河内 恭介
河内 恭介
葉山は許したんだし、もう用は済んだんだろ
その言葉には、聞き覚えがある。

昨日の放課後、駅でふたりでいた時に、河内くんが「忘れ物を届けてくれた」と嘘をついて、
藤間くんが言った、あの……。
葉山 日菜
葉山 日菜
(昨日の仕返し?)
河内 恭介
河内 恭介
行こう、葉山
葉山 日菜
葉山 日菜
あっ、あ、うん
ベッドの上に置いていたノートをかばんにしまって、河内くんが強く手を引くから、よろけながら保健室をあとにした。
保健室を出てから、河内くんはずっと無言でスタスタと歩き続けている。
手を引かれている私は、ほとんど駆け足気味についていくしかない。
葉山 日菜
葉山 日菜
ま、待って、待って! 河内くん!
河内 恭介
河内 恭介
……あ
名前を呼んだらようやく気づいてくれて、申し訳なさそうな表情で足を止めてくれた。
河内 恭介
河内 恭介
ごめん、俺……
葉山 日菜
葉山 日菜
ううん
葉山 日菜
葉山 日菜
河内くん、本当はいつもこれくらいの速さで歩いてたんだね
河内 恭介
河内 恭介
え?
葉山 日菜
葉山 日菜
今日、階段で話してた時は、私にスピード合わせてくれてたんでしょ?
葉山 日菜
葉山 日菜
ありがとう
後ろを見る。

誰もいない。
葉山 日菜
葉山 日菜
手を離しても大丈夫だよ。藤間くん、追いかけたりしてないから
河内 恭介
河内 恭介
うん
とは言いつつも、河内くんは手を離そうとしない。
私が藤間くんを苦手に思っているから、手を引いてまで連れ出してくれたのだと思っていたんだけど。
葉山 日菜
葉山 日菜
えっと……、あの、大丈夫? 私と一緒にいるところを、クラスの人に見られたら……
河内 恭介
河内 恭介
いいよ
河内くんはそう言って、握る手をギュッと強くした。

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