突然の藤間くんの来訪に驚いて、名前を呼ばれたけれど返事をすることが出来ない。
しかもここには、河内くんもいる。
出ていけるわけがない。
隣にいる、河内くんを見る。
そうだとしても、男子と一緒だとは思っていないのかもしれない。
震える声で嘘をつくと、ベッドについていた手が、ギュッと握られた。
河内くんが小声で、唇に人差し指を当てている。
藤間くんが、謝った。
昔は、謝るどころか、私のことばかりいじめていた人が。
手を握る力が、強くなった。
繋いだ手を引いて、河内くんがベッドから立ち上がる。
瞬く間にカーテンの外に連れ出されてしまい、呆気にとられている藤間くんと目が合った。
その言葉には、聞き覚えがある。
昨日の放課後、駅でふたりでいた時に、河内くんが「忘れ物を届けてくれた」と嘘をついて、
藤間くんが言った、あの……。
ベッドの上に置いていたノートをかばんにしまって、河内くんが強く手を引くから、よろけながら保健室をあとにした。
*
保健室を出てから、河内くんはずっと無言でスタスタと歩き続けている。
手を引かれている私は、ほとんど駆け足気味についていくしかない。
名前を呼んだらようやく気づいてくれて、申し訳なさそうな表情で足を止めてくれた。
後ろを見る。
誰もいない。
とは言いつつも、河内くんは手を離そうとしない。
私が藤間くんを苦手に思っているから、手を引いてまで連れ出してくれたのだと思っていたんだけど。
河内くんはそう言って、握る手をギュッと強くした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。