視点:初兎
もう俺の周りに「化け物」「悪魔の子」「忌み子」だと言う人はいない。
今の俺の周りには、俺を必要としてくれる人たちがいる。
俺を人間として見てくれる人たちがいる。
俺を信じてくれる人たちがいる。
俺を…家族の一員のように思ってくれる人がいる。
だから、俺はもう大丈夫。
自信をもって生きられる。
自分は人間だと、胸を張れる。
例え、再び先祖返りが起きて、魔物になる事があったとしても。
きっとみんなが俺を救ってくれる。
俺だって、魔物の自分に負けるつもりはない。
これから先の未来だって、みんなと一緒にいたいから。
目の前に、血だらけでボロボロな僕が見える。
うずくまり、泣きじゃくる、幼い頃の僕が見える。
〔痛い…辛い、苦しい……寂しい…〕
その言葉に反応した幼い頃の僕は、俺を見つめて泣きながら笑う。
〔大丈夫……僕はもう、幸せみたいだから…〕
そう呟いて、一瞬で姿を消した。
……そうやな、幼い頃の俺。
俺は確かに幸せや。
そして、"僕"も幸せやった。
いむくんとの出会いが、これまでの幸せの始まり。
いむくんがいなければ、"僕"は"俺"にはなれんかった。
ほんと、頭が上がらんわ……
ーー孤独だった兎は、人の温もりと幸せな日々を噛み締める。
第三章 "必要"とされたかった者
終幕
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。