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戻ることがないと思われていた意識は突然覚めた。
気がつけば仰向けに寝ていて、ベッドの上にいる。天井は真っ白。
よくわからない管に全身が繋がれている。知らない機械音が響いている。持っていない服を着ている。
…痛い。
全身が痛い。頭も、心臓も、腕も、腹も、足も…。
違和感はあった。
足の感覚がない。ベッドに触れていない。
そもそも起き上がれない。バランスを崩しそうになる。
冷や汗が垂れた。
突然高い女性の声が響いたが、起き上がれないので視界に入っていない。
焦りを滲ませて僕の右手を取る。
…あったかい。
…僕、生きてるんだ。
状況を確かめたい中、いろいろと聞きたいことがあったが、僕のこの頃は家族の安否を知ることだけが小さな脳を支配していた。
返事は返ってこなかった。
その代わり、手がいっそう強く握られた。
小さな泣き声がこだまする。
……え?
お父さんとお母さんは…?
いるよね?僕の横に……。
ゆっくり、ゆっくりと頭を動かした。
けど、僕の手を泣きながら握りしめているのはお父さんでもお母さんでもない。
透き通るような青色の目のお姉さんだった。茶色の髪を結んでいる。
それしか聞きたいことが言えなかった。
自分よりも家族を心配したかった。
じゃあなんで泣いてるの、とまで聞けなかった。
小さいながらも、自分の置かれている状況がだんだんとわかってきた。
お姉さんは嬉しくて泣いてるんじゃないって、わかった。
僕と、僕のお父さんとお母さんに対して悲しくて泣いているんだって。
…泣けなかった。
本当なら部屋いっぱいに泣き叫んで暴れたい。
疲れているのか、虚無感に包まれているのか。
…いや、そうじゃない。
当時の僕には、あまりにもそれが大きくて、ショックすぎたんだ。
ズキンと頭が痛む。
…謝りたいのは……謝るべきなのは…僕なのに。
なんで…?
声を絞り出すのがやっとだった。
手がそっと離される。温もりは、まだそこにあった。
落ち着きたい以前に全身が痛いのが今の状況。下手に動けない。
安心感がほしくて、そうおねだりした。
力強い返事が返ってきたおかげで緊張感が解け、肩の力が抜ける。
再び目を閉じて、意識を闇の中に落としていった。
次に目が覚めたのは夕方くらいだったらしい。
曇り空だけど、カラスの鳴き声がよく通っていた。
気が付けばさっき付けられていたごちゃごちゃした管とか全てなくなっている。
そして、足の違和感は消えずにあった。
…起き上がれない。
痛くてとか安静にしてなさいとかそういう意味じゃなくて、仮に自由だったとしても起き上がれる気がしない。
そして、僕は自分の体を凝視する羽目になった。
独り言のような、でも誰かに答えてほしいようなその言葉は静かに溶けていった。
さっきのお姉さんはいない。
当時の僕は約束を破られた気がして泣きそうになった。
いや、それ以前に…。
足がない。…僕の下半身が消えている。
魔法なんて存在するの?人間って下半身がなくても生きれるの?
てか…なんで僕生きてるの…?
ベッドの上で上半身(というか上半身しかない)を起こして呆然としていた。
僕…生きてる。
ちゃんと心臓はドクドクしているし、肺は膨らんだり凹んだりしている。
よく見たら全身包帯まみれだった。
僕、ミイラ男に生まれ変わったのかも。…そんなわけないよね。
会いたい。
でも、観覧車のゴンドラ内で見た最後の景色で記憶は終わっている。
はっきりと光景は残っている。
………でも。
いきなり病室の扉が開かれ、カルテを持ったお姉さんが飛び込んできた。
今度こそ、その姿をはっきりと目に収めた。
彼女は涙目で僕に近付くとカルテを放り出しかけて(セーフ)僕を抱きしめた。
その〝間に合わなかった〟が、僕の足のことについてなのか、僕のお父さんとお母さんのことについてなのか、はたまた両方なのか、考えたくなかった。
僕はただただ抱き返すことしかできなかった。
言いたいこと…聞きたいこと…ましてやぶつけたいこと…。たくさんあるはずなのに全部なかったことのように消えていく。
…いや、でも…。
お姉さんは表情を変えなかった。涙をこぼしたままだ。
察してということだろうか。
僕にとってはせめてもらい泣きでありたかったのに、彼女には意味が伝わったと思われたのかついに表情をぐずぐずにした。
わかってる、と僕の心のどこかで返事が響いた。…最低だな。
〝間に合わなかった〟の意味はそっちだったみたい。
…うん。僕の横にいない時点で、あの観覧車から見た逆さまの景色で、何となくわかってた。
…わかってた。
…わかってたよ。…僕のせいなんだ。
そう考えたら涙が止まらない。
僕、僕がお父さんとお母さんを……。
思い出。…本当に、最後の、家族との思い出。
僕が…その節目をちょん切った。
涙が噴水のように出てはぽたぽた落ちていく。包帯が滲んでいく。シーツが湿っていく。
顔を覆って泣きじゃくる僕を、お姉さんは一度も責めずに抱きしめてくれた。
7歳にして、両足と両親を失う。
だがこれは序の口であり、本当の呪いはここからだった。
ようやく泣き止むころにはカラスの鳴き声はが完全に消えていて、雲に覆われた夜空が窓に映っていた。
しばらくしてお姉さんがおぼんを運んできた。上にはあたたかな食事が並んでいる。
慣れた手つきでベッドに付いているスライド式のテーブルを引っ張るとおぼんを置いた。
…正直、食欲はなかった。
あれだけショッキングなことを2つも知ってから頭が働かない。泣き疲れているっていうのもあると思う。
そう言われて、フォークを取った。
…何だか学校の給食に似ているメニューだな思いながら西京焼き(お姉さんが教えてくれた)を口に運ぶ。甘じょっぱさがお母さんの料理を思い出させた。
食欲がないと思っていたが体は正直で、ちゃんと完食した。お姉さんもこれは意外だったみたいで嬉しそうにおぼんを回収してくれた。
お姉さんがおぼんを片付けに行っている間、病室の観察をした。
1人分かと思っていたけれど、ベッドは自分が使っているものを含めて4つ。風通しが良く、心地いい。なんか自分が堂々と4人部屋を使っていると思うと申し訳なくなるが、今の脳は半分以上空白だった。
…正直、何も考えたくなかった。
僕のせいだっていう事実が深く胸に突き刺さっている。
と言いつつ、少しだけ、あれは幻で実はお見舞いに来てくれる期待している自分がいる。
…そんなわけないのに。
お姉さんが泣きながら謝ってきて、あれが嘘だとは思えない。
…僕、これからどうなるんだろう。
足がないから余計に移動もできない、移動もできない。…まぁ走れないのは元からか。
お姉さんが戻ってきてベッドの横に来ると、改まって首から下げていた名刺を見せてきた。
にぱっと笑顔で名前を教えてくれた。
学校の担任の先生と似た雰囲気を感じたので無意識に先生を付けて呼んでいた。
しばらくして彩菜先生は、カルテをそっと取ると曇った表情になった。
…。
…え?
僕が、2つも…病気?
ため息をついて、半分ほど開いていた窓をぴしゃりと閉めた。これで密室となった。
病名は覚えられない。そりゃそうだ。今までお父さんもお母さんもちっともその話題に触れてくれなかったんだから。
おかげで僕は鈍かった。反応速度も人一倍遅い。
…よ…めい……?
余命…?
…なん、びょう……?
空っぽの脳みその中に浮かんだのはたったそれだけ。
なんで〝余命〟という単語を知っていたのかはわからない。心は絶望で覆われていた。
ゆっくり、ゆっくりと歯車は回る。
大人になれない。
お父さんみたいにがたいが良くて明るい大人にも、
お母さんのような優しくて気遣える大人にも、
ましてや彩菜先生のように誰かのために頑張れる大人にも…なれない。
…成長できない。
僕もう、そんなに生きれないんだよ?
お父さんもお母さんも…僕が…ころしたんだよ?
なんで……僕…
…生きる意味なんて、もうないのに。
誰の目にも入らない。無理に気を張らなくていい。
それが、僕にとって脱力であり、良くない薬だった。
…自分って、なんだっけ。
また、涙が溢れてきた。目頭が感覚がないほどに熱い。
切り替えをするような提案だった。
閉めていた窓を半分ほど開けて換気をすると、そばにあった折りたたみ式の車椅子を開いて、僕を抱っこして乗せた。
足がないせいで座り方には違和感しかなかったが何とかすっぽりおさまった。
病室を出ると廊下を進み、突き当たりの部屋に案内された。
慣れた手つきで僕を促しながらゆっくり服を脱ぐ。
本当に包帯まみれかと思いきや頭も無事だし、腹部も重症じゃなかったらしい。
他の看護師さんにも手伝ってもらって頭を軽く洗い、湯船に浸かる。
彩菜先生が言ってた通り、全く熱くないぬるま湯だった。それが気持ちよくて力を抜いたら(足がないため)溺れそうになるから怖かった。
数分ほど浸かって上がると、ほかほかの布を包帯の上から巻きつけられた。タオルを被ってよく拭いてもらって病室に戻る。
車椅子から降りてベッドに戻される。
布団をそっと被せると枕元にコードが付いたボタンを置いた。
そう言っていまだにほわほわしている僕の頭を撫でると電気を消して
と言って静かに出ていった。
広い病室に1人取り残され、寒気を感じた。
…僕、本当にここで生活していいのかな。
まだ小さいから、お金のことなんて聞いたら多分怒られちゃう。本当は、僕はお金なんて持ってないはずなのに。
先生が許してくれたのかなぁ。
行き先なんてもうないから。行き先すら選べない体になっちゃったから。
…そんな人生、あっていいのかな。
僕、お父さんもお母さんもころしちゃったのに、僕だけ生きてていいのかな。
心の中に隠れてばっかの僕が生きてていいのかな。
もう何もすることがない。していいことがない。
…いや、一つだけある。
今の僕にでも…今すぐにでも…できること。
それは…
これだけ、できる。
行動で示すことができる。
物音が聞こえないのを確認してベッドから転がり、真横の窓に手を掛けてよじ登る。
曇り空は今日だけ綺麗に思えた。
ここは2階。
でも、この体なら。……今のこの体なら。
境遇にも、病気にも、孤独にも縛られなくていい。
今はそれを、明日を望まない僕が望むこと。
身を乗り出してバランスを崩したら落ちて行ける。
『金木犀』が儚く散っていくみたいに。
あの時、僕らを乗せたゴンドラみたいに。太陽と共に沈んでいける。
ううん。
多分僕は、笑っていない。
風邪を全身に浴びて、地面にご挨拶しよう。
気付けば体はベッドに押し戻され半泣き、半怒りの彩菜先生が勢いよく窓を閉めてカーテンも閉めた。
諦めて、布団をばふっと被った。
先生はそれを見て少し考えたように顔を近づけた。
チュッ
微笑んで、今度はすぐに出て行こうとせずに僕が寝付くまで隣のベッドに座っているようだ。
思わず寝返って先生に背を向けた。
僕は嬉しさと寂しさで、また泣きそうになった。
でも、これだけでは僕の心は晴れそうにない。
とりあえず今は疲れて瞼を閉じていった。
明日のことは…また明日考えよう。
僕に今できることはお父さんとお母さんに謝ること。
…体を犠牲にしてもね。
この概念は、とある少年に出会うまで揺らぐことはなかった。
スクロールお疲れ様です。
第27話もお読みいただき、ありがとうございます。
えー、かなり期間が空いてしまいました。体調不良で喉が死んで、憂鬱期間突入のせいで下書きも進まないの状況+テストが迫ってきてると。終わってますね()。投稿できなくてすみませんでした😭
それに、またお休みをいただきます。本編の方をテストが終わる3月9日までお休みします(15教科マジで許さん)、お許しください。春休みとかは投稿頑張りたい…!
そして、関係ないですがこちらでもお呼び出しさせていただきます。
1.点Pさん 2.マグロ寿司さん
3.珀莉さん 4.炎めらさん
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最後に、もしかしたらと思いましてメッセージ✉️
受験生の皆さんへ
まずは、受験本当にお疲れ様でした。自分の行きたい学校目指して必死に取り組む毎日だったかと思います。大切なのは結果もだけど、諦めずに最後まで足掻けたか、ということだと私は思っています。勉強とか、試験対策ばかりで思うようにいかない日々もあったかと。でも、どんな形でも努力は決して裏切りません。ぜひ、自分の力を大切にしてください。
改めて本当にお疲れ様でした。ゆっくり休んでください。わざわざ時間を削ってまで私の小説を見てくれてありがとうございました。
頼りない先輩ですけど、一緒にこれを経験できて嬉しいです。これからの人も、ぜひできることを積んで高くしていってくださいね。
では、次の話でお会いしましょう。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。