心を鷲掴みにされるような
感覚を抱きながら、
私は答えに迷っていた。
私は真司先輩を見上げる。
自分の気持ちが見えなくて──。
私は先輩といるというのに、
無意識に昌のくれた髪飾りに
触れてしまうのだった。
***
真司先輩とのデートから、
数日が経った。
放課後になると、
私やみくるの他に何人かの生徒が
担任に捕まった。
担任の先生に頼まれ、
私たちはプールへ移動する。
***
私たちはデッキブラシで
プールサイドを磨く。
プールの中は、
先生が抜き忘れたとかで、
水がたっぷり入っている。
そんなことを考えながらプールを眺めていると、
小学生みたいにモップでお尻を叩き合っていた
男子たちがどんっとぶつかってきた。
気づいたときには、
眼前にプールの水面があって……。
みくるの悲鳴が、
バッシャーンッという
大きな水しぶきの音に掻き消される。
ぶくぶくっと口から空気が漏れた。
スポーツは得意なほうだが、
昔から水泳だけは大の苦手だった。
どんなに手足をばたつかせても、
水面に上がれない。
私の制服は水を吸って重くなり、
身体はどんどん沈んでいく。
薄れゆく意識の中で、
私は助けを求めるように手を伸ばす。
頭に浮かぶのは、
とっさに助けを求めようとした、
〝あいつ〟の姿だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!