第17話

17話 思い浮かんだのは
4,378
2020/11/12 09:00
伊澄 真司
伊澄 真司
1年前、あなたが
入部したいと剣道場に来たときだ。
あなたは言っただろう
あなた

……?

伊澄 真司
伊澄 真司
『親友を守るために、
強くなりたいんです!』って
あなた

先輩、覚えてて
くれたんですか

あなた

(そういえば……)

あなた

先輩は、私の入部動機を聞いた
他の部員たちと違って、
『変わってるな!』とか、
笑ったりしなかったですよね

伊澄 真司
伊澄 真司
俺には人の本気を笑う
趣味はない
伊澄 真司
伊澄 真司
あなたの気持ちが
固いとわかったから、
男女関係なく本気で稽古をつけたんだ
伊澄 真司
伊澄 真司
そうして誰かのために、
必死に俺に食らいつこうとする
あなたに……俺は惚れた
あなた

……!

心を鷲掴みにされるような
感覚を抱きながら、
私は答えに迷っていた。
あなた

(昌といると、
予測できない反応にドキドキするし)

あなた

(みくるみたいに、
気づいたら危険に巻き込まれてるから、
なんか、ほっておけないと思う)

あなた

(だけど……)

私は真司先輩を見上げる。
あなた

(先輩は頼りがいがあって、
一緒にいると安心する。
自分が成長できる)

あなた

(私は、どっちが好きなんだ……?)

自分の気持ちが見えなくて──。

私は先輩といるというのに、
無意識に昌のくれた髪飾りに
触れてしまうのだった。

***

真司先輩とのデートから、
数日が経った。
担任
担任
あ、そこのお前たち!
このあと、プール掃除を頼む
放課後になると、
私やみくるの他に何人かの生徒が
担任に捕まった。
あなた

あ、はい

美園 みくる
美園 みくる
はーい
あなた

(そろそろプール開きだもんな)

担任の先生に頼まれ、
私たちはプールへ移動する。

***
美園 みくる
美園 みくる
ねーねー、なんだかみんなで
デッキブラシ持ってプール掃除って、
青春してる気がしない?
あなた

そうか?? こういうとき、
普通は面倒なこと押しつけられ
たなーって思うんじゃないのか?

美園 みくる
美園 みくる
そうなの?
あなた

みくるはポジティブだな

私たちはデッキブラシで
プールサイドを磨く。

プールの中は、
先生が抜き忘れたとかで、
水がたっぷり入っている。
あなた

(先生には悪いけど、
水を抜き忘れてくれたおかげで
プールサイドだけの掃除で済んだし)

あなた

(ラッキーだったな。
これで早く部活に行ける)

そんなことを考えながらプールを眺めていると、
小学生みたいにモップでお尻を叩き合っていた
男子たちがどんっとぶつかってきた。
あなた

(えっ……)

気づいたときには、
眼前にプールの水面があって……。
美園 みくる
美園 みくる
あなたーっ
みくるの悲鳴が、
バッシャーンッという
大きな水しぶきの音に掻き消される。
あなた

(うっ……)

ぶくぶくっと口から空気が漏れた。
あなた

(私、泳げないのにっ)

スポーツは得意なほうだが、
昔から水泳だけは大の苦手だった。

どんなに手足をばたつかせても、
水面に上がれない。
あなた

(プールって、
こんなに深かったっけ……)

私の制服は水を吸って重くなり、
身体はどんどん沈んでいく。
あなた

(ああ、ダメだ……。頭が……
ぼーっと……す、る……)

薄れゆく意識の中で、
私は助けを求めるように手を伸ばす。
あなた

(誰か、あき──)

頭に浮かぶのは、
とっさに助けを求めようとした、
〝あいつ〟の姿だった。
???
???
あなた!

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