……くっそ気まずいやん何これ。
周りはガヤガヤとお祭りを楽しむ人が笑顔で歩いている中。
私といるまくんは二人で並んで歩き、無言。
なんでこんな状況になっているのか、それは遡ること数分前———
やって来ました、花火大会。
今年はクラスで行こうということになり、私も周りの子も浴衣なり何なりで凝った見た目の子も多い。
私は特に何にもないから変わってるのは髪型ぐらいだけど。
周りをちらっと確認して、返事をする。
……良かった、いるまくんいない。
そっと、息を吐く。
その名前が出てきて、思わずドキッとする。
眉をひそめてスマホを確認するのは、いるまくんと仲の良いなつくんだ。
来ないわけないってなんだろう。
はぁ……とため息をつく。
すると、男子が一人、声を上げた。
慌てて顔を上げると。
人混みの中にいる、私服姿のいるまくんと目が合った。
いるまくんは私を見ると、大きく目を見開く。
なつくんに声をかけられたいるまくんは、はっとしたように私から目をそらした。
昨日、偶然聞いてしまった言葉。
放課後の教室でなつくんと話していたいるまくんは、たしかにそう言った。
……私の話題で。
未だに信じられない。
あんだけ、冷たくされてたのに。
本人によれば、私と話すと「顔が緩みそうだから」らしいけど。
乙女かよ!?と思いつつも、顔が熱くなる。
あーもう、今日まともにいるまくんと話せる気しな……
驚いた私の声に、不意をつかれたように目をぱちくりさせるいるまくん。
慌てて辺りを見回すと、いるまくんの言う通りすでに見知った顔は誰もいない。
もう出店のほうに行ってしまったみたいだった。
いるまくんだけ、待っててくれたっぽい。
つか人多すぎんだろ……とげっそりしたように言ういるまくん。
ふと思った疑問を、口にする。
目が合ったいるまくんは、ハッとしたように私から顔をそらす。
そこから、沈黙。
一気に気まずさを実感する。
場を変えようと、口を開くと。
いるまくんはこくっとうなずいた。
……そして、今に至る。
屋台回ってたらクラスの子たちと合流できるかな~なんて思ってたのに
誰もおらんやんなぜ。
並んで歩いたまま、本日何度目かの、小さなため息をつく。
話しかけられ、反射的に声を出す。
いるまくんの不審そうな視線が痛い。
思わぬ言葉に、固まる。
挙動不審なのばれてたやん……
これは……
いや、待ってどうしよう。
なんて言えばいいのかわからず、目を泳がす。
思わず言葉に詰まる。
けどさすがに本当のこと言うわけにはいかないし…!!
※馬鹿。
ふっと真剣な色になったいるまくんの瞳に、嘘はつけなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。