冨岡さんと交際を初めて早1ヶ月。
私は告白されたあの日、
すぐに蜜璃さんに報告へ行った。
嬉しさのあまり言葉を
上手く話せなかったのを覚えている。
口をずっとパクパクさせて必死に伝えようとするが、
ひとつも伝わらない。
コクコクと大きく頷き、告白されたことを伝えた。
蜜璃さんは自分の事のように喜んでくれた。
廊下で飛んで喜んだのを覚えている。
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交際を始めたと言っても生活は何ら変わりはない
なんなら交際する前の方が優しかった気がする…
でも仕事が終わると、
そう指示されたのは冨岡さんの膝の上。
自分でも顔が熱くなっていくのかわかる。
私が冨岡さんの膝の上に背を向けて座ると、
と言われる。
私は冨岡さんの膝に跨るようにして座ると、
そのまま冨岡さんは私を強く抱き締めてくれる。
仕事以外ではこんなに甘々で
いつも私のことは下の名前で呼んでくれる。
その特別感がとても嬉しかった。
彼はいつも抱きしめてそう言う。
その言葉が嬉しくて強く抱きしめ返す。
仕事中も触れたくてたまらない。
すぐそばに居るのにすごく距離があるように感じる。
お互いの存在を確かめ合うように抱きしめ合う。
その時、
御館様の声に我に返る。
急いで離れて恋人では無い振りをする。
それがとても苦しかった。
冨岡さんの声に、御館様が入ってくる。
御館様に促され、冨岡さんの隣に腰を下ろす。
ただならぬ緊張感。
沈黙が流れる中、自分の心臓の音だけが
体の中に響いていた。
十二鬼月と戦った記憶…
恐怖で体が動かなくなったあの感覚が
鮮明によみがえってくる。
思い出すだけで息が詰まりそうだった。
そういうと御館様は部屋を出ていった。
一気に体の力が抜けて、倒れそうになる。
抱きとめてくれた冨岡さんの温もりに
酷く安心して涙が溢れそうになる。
その日は任務の準備をして
早めに眠りにつこうとした。
だけどあの日の記憶が邪魔をして寝れなかった。
結局そのまま朝になり出発の時間となってしまった。
緊張は高まるばかり。
心臓は今までにないくらいに忙しくしていた。
少し前を歩く冨岡さんの背中は
とても大きく、たくましく見える。
それと同時に、
また迷惑をかけてしまうんじゃないか…
足を引っ張るだけになってしまうんじゃないか…
と思ってしまう。
ときどき振り返り、心配してくれる冨岡さん。
その度、精一杯の笑顔で
と返す。
死にたくないと思うのは冨岡さんもだ。
なのに…
行きたくない…怖い…
そんな感情が頭の中をぐるぐると回る。
私が失敗してしまえば、
冨岡さんまで悪く言われてしまう。
戦う前から余計な被害妄想ばかりで、
上手く戦えるイメージどころか、自分が鬼に
食べられるところばかり頭に浮かんでしまう。
不安と緊張、恐怖をかかえ、ただひたすら歩き、
という冨岡さんの声で顔を上げてみれば
私の知っている賑やかな西の街が広がっている。
ここで…鬼と戦う…
また2人で歩き出す。
こんな街で鬼なんて…
そんなことを思いながら冨岡さんの後をついて行った
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。