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第8話

できること
「どうしたの。2人して泣いて」
彼女に言われてから僕は自分の頬を伝うものの正体を理解した。急いで目をこすった。僕が泣くなんてお門違いもいいところだ。彼女は彼らの母親の介抱をし終えたらしい。この場でどうにかできることはどうにかしたがあとは病院に行くしかないらしい。彼女は悔しそうな顔を浮かべていた。
「ありがとう」
彼らが声を揃えて彼女に言う。妹の方は僕に向けても言ってくれた。
「こんなのおかしいわ!」
突如、彼女の悔しさが滲み出た。そこからは早口とヒンドゥー語が混ざって聞き取るのが難しかった。聞き取れたところと表情から彼女は階級社会に怒っていることがわかった。自分はたまたま良いところへ生まれて良い大学へ進むことができた。でももし生まれの階級が違ったら死んでいたかもしれない。同じ人間なのに。一体、何が違うと言うの。彼女はそのようなことを言っていたのではないかと思う。僕も同意見だ。
妹の方が不安そうに兄の手を両手で握る。お母さん死なないよね。そう言っている気がした。僕はいたたまれなくなってしまってそこから目をそらした。その先では使われていない写真立てが僕を見つめていた。僕はそれに気がつき鞄の中からインスタントカメラを取り出した。
「すみません。彼らに写真を撮らないかって勧められませんか?」
彼女の表情はまだ怒りに囚われている。
「できるけど。写真を撮ってどうするの」
どうするのか。僕が写真を撮る理由は1つしかない。
「写真立てに思い出として飾りたいんです」
彼女はより一層怪訝な顔を僕に向ける。この外国人は何を言っているのだろうとでも思っているのだろうか。
「これはインスタントカメラです。写真をその場で手渡すことができます。母親との写真を僕がプレゼントしたんです」
この言葉に物乞いと同じ英語のフレーズを添える。僕のプリーズは少女のとは違って自分勝手極まりないなと思った。
「わかったわよ」
彼女はしかめっ面を直して彼らに告げてくれた。病人との写真を勧めるのは失礼だっただろうか。写真なんかよりもお金の方を渡すのが一番なんじゃないか。僕の中に色々な考えが生まれる。しかしそんなことはなかった。彼らは心底嬉しそうな表情をこちらへ向け、2人してこちらへ向かって来た。2人で僕に抱きついて来た。驚いた。彼らは泣きながら僕の制服にしがみつく。ありがとう、ありがとうと言っていた。僕の頬をまた何かが通るのを感じた。

パチッ。

僕は2人に写真を手渡し彼女とその場を後にした。彼らの母親を無理やり起き上がって笑顔を作ってくれた。彼らの笑顔は世界一だと僕は思った。