そんな神経をすり減らす日々は一週間ほど続き、いまだにノートは見つからないものの、時間とともに私は平穏な気分を取り戻していった。
悪意ある人の手に渡ったなら、そこから友達同士で共有されて持ち主探しがはじまって……なんて恐ろしい事態も覚悟はしていたけれど、そんな気配はまったく感じられない。
きっと、良識ある人が拾い、自分だけで楽しんでゴミ箱に捨ててくれたんだ。いや、そもそも読んですらいないかもしれない。
そう思いたい。そうに違いない。
女子高生の心の内をつづったポエムなんてミサイルの発射ボタンより触れちゃいけない存在。
それをバカにしたり、ましてや誰かに見せたりなんて、ヤクザやテロ集団でも躊躇するだろう。
月曜日の気だるい空気もなんのその。私は晴れやかな気分でお弁当の卵焼きを口に運んだ。
今日の卵焼きはいつもよりしっかりダシがきいていておいしい。
机の向かい側でお弁当を食べていた香澄は、思い出したようにハシを置いてスマホを取り出した。
ボカロとはボーカロイドの略。歌詞とメロディーをソフトウェアに入力すると、歌い上げてくれる音声合成システム。スマイル動画、略してスマ動などの動画投稿サイトでは、ボカロで作られた数多くの楽曲を聴くことができる。
香澄がオススメしてくる音楽といえば、たいていアニソンかボカロ曲だ。私はアニソンなら有名どころはわかるけど、ボカロはあまり詳しくないので、彼女から教えてもらって流行りの曲を知ることが多い。
香澄は自分のスマホにつながったイヤホンを差し出してきた。
そんな風に心配してくれる親友がいること。
幸せかどうかと問われれば、私にとってこれ以上に幸せなことなんてない。
「ありがと」と言ってイヤホンを受け取り、両耳にねじ込む。
しばらくして、エレキギターの心地よいイントロが聴こえてきた。
そんな受け答えをしていると、急にドラムとベースが加わり、重厚感のあるロックな曲調に様変わりした。
心臓を蹴飛ばすようなバスドラムの音。
ほっぺたをビンタされているようなスネアの音。
胃袋を締めつけるように唸り声を上げるベースの音。
それらにのって奏でられる、泣いているようなギターのフレーズ。
香澄はスマホのボタンを押して少しだけ音量を下げてくれた。
うん、たしかに私自身ちょっと大きいかなと感じたのだけど、それよりも──……。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。