俺は信号機の手前で止まっていた。
行き交う車を眺めて、溜め息を落とす。
いつか二人で組んだマイクラ人狼。
俺は今、ちゃんと言えてますか?
赤信号が青に変わって、一歩踏み出す。
ゾムさんは死ぬ間際、何を考えてたんですか?
もしそれが俺だったら、何を考えてたんだろう。
べたに「生きたかった」とか。
そうだよ。
ゾムさんだって、もっと生きたかった筈だろ?
何で、死んだんすか。
俺、ずっとゾムさんに憧れてて。
手が届かない人だって思ってたのに、やっと一緒に出来て。
そんな声が風にのって聞こえた気がして振り返る。
それは、ゾムさんの声に酷く似ていて。
何か熱いものが頬を伝って流れ落ちた。
俺、ゾムさんに言いたい事、沢山あるんです。
やりたい事、聞きたい事、伝えたい事だって。
いろんな事、やり残したんまじゃないですか。
何で、俺を置いていくんですか。
ただただ届けば良い。
ちゃんと伝わりますように。
ゾムさん。俺今、いつも通り居られてます?
中途半端にして行って!
絶対に許さないですから!
そう言って笑った。
誰もいない道路で、ただ泣いていた。
夢ならどれ程。
伝えられる気持ちも、溢れる思いも。
今じゃゾムさんに伝えられない。
ゾムさん。
俺、人前で歌う事なんて無いんですよ。
何か、苦手なんです。
こういう臭いのとか。
俺からの、最初で最後の手紙です。
ちゃんと、聞いててくれますよね?
歌い終わって、目を開ける。
いつの間に、目を閉じていたんだろう。
ちゃんと、ゾムさんに届いただろうか。
隣からそんな声が聴こえてきて目を見開く。
会いたいと焦がれ続けた彼の声。
会いたいと泣いて悔やんだ彼の声。
ゆっくりと、その事実を噛みしめる。
ゾムさんの方を向けなくて俯きがちに言葉を投げる。
見てしまえば、歯止めが効かなくなりそうだった。
ゾムさんは、いつも通り笑っていた。
通り過ぎた車のクラクションも。
通り過ぎるカップルの話し声も。
塀の上の猫の鳴き声も。
今だけは、聞こえない。
ゾムさんの声は、それだけ澄んで聞こえた。
俺は思わず下を向いた。
だって。そんな顔で、いつもみたいに言われると。
ゾムさんの前でも泣きたくなるじゃないですか。
必死に堪えて、ゾムさんの顔を見る。
ゾムさんは、いつだって前を向いているんだ。
弱い俺とは何もかもが違う。
諭されるようにそう言われちゃって。
頷くしかできないですよ。
本当に、狡い人ですね。
甘い甘い毒が体中を駆け巡っちゃって、もう手遅れなんです。
ゾムさんの言葉が嬉しくて。
ゾムさんの体温が暖かくて。
ゾムさんとの時間が楽しくて。
けどそれはもう過去の事。
俺たちの軸は、ずれ始めた。
止まった軸がゾムさんで、離れる軸はきっと俺だ。
此れから悲しくなるのは、ゾムさんの方なのに。
何で俺が泣いてて、ゾムさんは笑ってるんですか。
少し、寂しいじゃないですか。
、
ゾムさんはやっぱり笑顔で頷いて消えた。
雪を見る度に辛くなって、ゾムさんを忘れきれないでいるかも知れないけれど。
それでも俺は、ゾムさんに笑顔しか向けないだろう。
きっぱり諦められたわけじゃない。
きっと此れからも、辛くなっていく。
けれど、俺はきっと死にたくなることは無い。
何があっても、俺の心にはゾムさんが居る。
Spirits are Forever with you.
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。