第3話

最初で最後の約束 ショッピSide
2,933
2019/06/08 23:41
俺は信号機の手前で止まっていた。
行き交う車を眺めて、溜め息を落とす。
ショッピ
ショッピ
ちょー楽しい
いつか二人で組んだマイクラ人狼。
俺は今、ちゃんと言えてますか?
赤信号が青に変わって、一歩踏み出す。
ゾムさんは死ぬ間際、何を考えてたんですか?
もしそれが俺だったら、何を考えてたんだろう。
べたに「生きたかった」とか。
そうだよ。
ゾムさんだって、もっと生きたかった筈だろ?
何で、死んだんすか。
俺、ずっとゾムさんに憧れてて。
手が届かない人だって思ってたのに、やっと一緒に出来て。
ショッピ
ショッピ
凄え、嬉しかったんすけど…
ゾム
ゾム
ショッピ君。ごめんなぁ…辛い思いさせて
そんな声が風にのって聞こえた気がして振り返る。
それは、ゾムさんの声に酷く似ていて。
何か熱いものが頬を伝って流れ落ちた。
俺、ゾムさんに言いたい事、沢山あるんです。
やりたい事、聞きたい事、伝えたい事だって。
いろんな事、やり残したんまじゃないですか。
何で、俺を置いていくんですか。
ショッピ
ショッピ
本当っすよ、馬鹿
ただただ届けば良い。
ちゃんと伝わりますように。
ゾムさん。俺今、いつも通り居られてます?
中途半端にして行って!
絶対に許さないですから!
そう言って笑った。
誰もいない道路で、ただ泣いていた。
夢ならどれ程。
伝えられる気持ちも、溢れる思いも。
今じゃゾムさんに伝えられない。
ゾムさん。
俺、人前で歌う事なんて無いんですよ。
何か、苦手なんです。
こういう臭いのとか。
俺からの、最初で最後の手紙です。
ちゃんと、聞いててくれますよね?
ショッピ
ショッピ
行け、飛べ
ありのままで
不安も迷いもあるけれど
やってみなきゃわからない
事がたくさんあるんだよ
行け、飛べ
あの空に届きそうなぐらいに手を伸ばす
僕らはもう一人じゃない
新しい世界に飛び込むのさ
怖い辛い悲しい事
ばかりじゃないけど
そっちの事ばかりが気になって
小さな事で笑えてる僕の方がいい
誰しもが
好きな自分でいれますように
行け、飛べ
できるだけ
小さな幸せに目を凝らせ
雨の日でも風の日でも
大切なモノは変わらない
行け、飛べ
あの空に届きそうなぐらいに手を伸ばす
僕らはもう一人じゃない
新しい世界に飛び込むのさ
行け、飛べ
ありのままで
不安も迷いもあるけれど
やってみなきゃわからない
事がたくさんあるんだよ
行け、飛べ
あの空に届きそうなぐらいに手を伸ばす
僕らはもう一人じゃない
新しい世界に飛び込むのさ
歌い終わって、目を開ける。
いつの間に、目を閉じていたんだろう。
ちゃんと、ゾムさんに届いただろうか。
ゾム
ゾム
ショッピ君、歌上手いやんか
隣からそんな声が聴こえてきて目を見開く。
会いたいと焦がれ続けた彼の声。
会いたいと泣いて悔やんだ彼の声。
ゆっくりと、その事実を噛みしめる。
ゾムさんの方を向けなくて俯きがちに言葉を投げる。
見てしまえば、歯止めが効かなくなりそうだった。
ゾム
ゾム
ごめんな?先に、逝ってしもうて
ショッピ
ショッピ
本当っすよ。何がしてくれてんすか
ゾム
ゾム
……仕方、無かったんや
ショッピ
ショッピ
仕方無いって何っすか。現に、俺、すっごい悲しいんすけど
ゾム
ゾム
……ごめん
ショッピ
ショッピ
やって、俺……ゾムさんの事、Likeじゃなくてloveで好きだったんすよ?
ゾム
ゾム
…其れは、僕も一緒やで
ショッピ
ショッピ
やったら、何で。俺の前から、消えるんすか
ゾム
ゾム
ショッピ君が、好きやから
ショッピ
ショッピ
答えになって無いっすよ
ゾム
ゾム
……僕な、病気見つかってん。結局死ぬんやったら、皆に言わんで死にたいって思っとったんや。其の矢先に事故に会うて、死んだ
ショッピ
ショッピ
びょう、き……?
ゾム
ゾム
おん。此れは、ショッピ君にしか言うてへんよ
ゾムさんは、いつも通り笑っていた。
通り過ぎた車のクラクションも。
通り過ぎるカップルの話し声も。
塀の上の猫の鳴き声も。
今だけは、聞こえない。
ゾムさんの声は、それだけ澄んで聞こえた。
ゾム
ゾム
せやからさ、ショッピ君
ゾム
ゾム
前向いて歩けや、阿呆
ショッピ
ショッピ
っ……
俺は思わず下を向いた。
だって。そんな顔で、いつもみたいに言われると。
ゾムさんの前でも泣きたくなるじゃないですか。
必死に堪えて、ゾムさんの顔を見る。
ゾムさんは、いつだって前を向いているんだ。
弱い俺とは何もかもが違う。
ゾム
ゾム
だって、僕はもう死んどって、ショッピ君は生きとる
本来なら、見える事がおかしいんに
せやから
見えない人に固執せんといて?
あ、でもたまに墓参りに来て欲しいわ
‎俺だって寂しいんやから、な?
諭されるようにそう言われちゃって。
頷くしかできないですよ。
本当に、狡い人ですね。
甘い甘い毒が体中を駆け巡っちゃって、もう手遅れなんです。

ゾムさんの言葉が嬉しくて。

ゾムさんの体温が暖かくて。

ゾムさんとの時間が楽しくて。

けどそれはもう過去の事。
俺たちの軸は、ずれ始めた。
止まった軸がゾムさんで、離れる軸はきっと俺だ。
此れから悲しくなるのは、ゾムさんの方なのに。
何で俺が泣いてて、ゾムさんは笑ってるんですか。
少し、寂しいじゃないですか。
ショッピ
ショッピ
わかりました。俺が、ゾムさんの為に生きていきます……だから…




















ショッピ
ショッピ
俺がじいさんになってそっちに行くときは、笑って出迎えてくださいね






ゾムさんはやっぱり笑顔で頷いて消えた。
雪を見る度に辛くなって、ゾムさんを忘れきれないでいるかも知れないけれど。
それでも俺は、ゾムさんに笑顔しか向けないだろう。
きっぱり諦められたわけじゃない。
きっと此れからも、辛くなっていく。
けれど、俺はきっと死にたくなることは無い。
何があっても、俺の心にはゾムさんが居る。




















ショッピ
ショッピ
ゾムさんと、約束しましたから
ゾムさんの為に生きるって

























































Spirits are Forever with you.

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