第80話

職場体験ⅩⅤ
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2024/05/05 03:00













______翌日















   轟「寝られたか?緑谷」




   緑谷「ううん、あんまり…………」














「だろうな、俺もだ」とため息混じりにそう返ってくる










ヒーロー殺しと対峙した翌日の朝、僕と轟君は運ばれた先の保須市総合病院の病室で朝を迎えた








4人部屋の病室には、恐らく先に搬送されたであろう飯田君も横たわっている










   緑谷「冷静に考えると、僕ら凄い事しちゃったね。あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって思っちゃう





僕の怪我ね、殺そうと思えば殺せたと思うんだ」











指先で包帯越しに治療中の脚を撫でる









僕も轟君も、本来ならそんな立場だったにも関わらず、今こうして適切な治療を受ければ五体満足で復帰できる怪我で済んでいる








意図的に生かされた













   轟「ああ。あんだけ殺意向けられて、それでも尚立ち向かったお前はすげえよ、飯田」







   飯田「いや、違うさ。俺は…………」














_______コンコンッ













何かを答えようとしていた飯田の声を、無機質なノックの音が遮った






病人達がドアの方向へ顔を向けたと同時にスライド式のドアが開く










  グラントリノ「おお、起きとるな怪我人共」





   緑谷「グラントリノ!」




   飯田「マニュアルさん…」









  グラントリノ「お前には凄いグチグチ言いたい」




   緑谷「アッ…す、すみませ……」





  グラントリノ「が、その前に」








"来客だぜ"










その言葉を合図にしたように、再び病室のドアがガラガラと音を立てる







それなりの高さがある入り口を窮屈そうに首を縮めて入ってきたのは…………大型、犬?









  グラントリノ「保須警察署署長の面構つらがまえ犬嗣けんじさんだ」








   面構「…ああ、掛けたままで結構だワン」









一瞬のフリーズを挟んで慌ててベッドを降りようとすると、気遣いでやんわりとそう止められる










ワ……………ワン?
















   面構「君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」









署長が直接赴いたからか、眉根を寄せて轟君が少々の警戒心を表情に乗せた










   面構「逮捕したヒーロー殺しだが…火傷に骨折と中々に重傷で、現在厳戒態勢のもと治療中だワン」







君達雄英生徒なら分かると思うが、と前置きをしてから、署長は超常黎明期とヒーローという存在について話し始める








公にヒーローが個性を使えるのは、先人達がモラルやルールを守ってきたから。










   面構「資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えた事。例え相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な規則違反だワン



君達3人及び、プロヒーローエンデヴァー、マニュアル、グラントリノの6名には厳正な処分が下されなければならない」





   緑谷「あっ……」




   轟「待って下さいよ、」









署長の口から告げられたその事実に轟君がベッドから体を起こして吠えかかる








   轟「飯田が動いてなけりゃネイティヴさんは殺されてた。緑谷が来なけりゃ2人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いていなかったんですよ?


規則守って見殺しにするべきだったって?」





   面構「結果オーライであれば規則など有耶無耶で良いと?」








   轟「っ………………人を救けるのがヒーローの仕事だろ…!」












歯の隙間から零れ出るように放たれたその羅列を、面構署長は一度ゆっくりと吟味するように瞼を閉じてため息を吐いた










   面構「だから君は卵だ……全く、良い教育をしているワンね。雄英も、エンデヴァーも」




   轟「………っこの犬……!」





   飯田「やめたまえ!最もな話だ」










  グラントリノ「まあ待て。話は最後まで聞け」










いよいよ轟君が署長に掴み掛からんと足を踏み出した時、その道をグラントリノの突き出された手の平が塞ぐ









   面構「以上が警察としての公式見解で、処分云々はあくまで公表すればの話しだワン」









先程までの厳格な雰囲気を和らげ、こもったような声に少しだけ柔和な色が上乗せされた








署長曰く、この件を公表すれば世論からは称賛されるが処分は免れない、しかし公表しなければその称賛がなくなるが違反を握り潰せる事ができるのだそう







その場合ヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として立て替えられる。


幸い目撃者も少なく、真実を知る者は精々両手で数えられる程度









   面構「どっちが良い?1人の人間としては、前途ある若者の"偉大なる過ち"にケチをつけたくないんだワン」




  マニュアル「まあどのみち、監督不行き届きで俺等は責任取らないとだしな…(泣)」







   飯田「…、申し訳、ございませんでした」





  マニュアル「よし。他人に迷惑がかかる!分かったら二度とするなよ?」







CHOP!








マニュアルさんが頭を垂れた飯田君の後頭部へ軽快にチョップを入れた








   緑谷「す、すみませんでした…」





   轟「よろしく、お願いします…」







彼に次いで、僕と轟君も順に頭を下げた








   面構「大人のズルで、君達が受けていたであろう称賛の声は無くなってしまうが…せめて、


共に平和を守る人間として__ありがとう」










丁寧にきっかり90度腰を折り曲げ礼をした署長に、「最初から言ってくださいよ…」と失礼な態度を取ってしまった事を悔やんでいるのか、轟君がぶすっとした表情でそう呟いた























思わぬ形で始まった路地裏の戦いは、こうして人知れず終わりを告げた__。

















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