帰宅部の友理奈は帰り支度をすっかり済ませて、私の隣の席にかばんを置いた。
付き合っていないし、だからといって浅野先輩に騒ぐつもりもない。
だって、私はあの人のことが……。
強めの私の否定に、友理奈がキョトンとする。そして、すぐに諦めたようにため息をついた。
誰かの彼氏だとか、私自身が男子が苦手だとか、そんな理由以前の問題がある。
いつからそこにいたのか、知宏にそんな指摘をされて、教室の壁掛け時計を見て飛び跳ねた。
友理奈にのんびりと「いってらっしゃーい」と見送られ、私は知宏と教室を飛び出した。
笑っているけど笑顔じゃない。いつもヘラヘラしている人ではあるけれど、その辺の違いは区別がつく。
サッカー部の練習グラウンドに最後に到着してしまった私たちは、二年生の浅野大翔先輩につかまっていた。
遅れてしまったのは事実だから、反論は出来ないけれど……。
知宏ひとりだけだったのなら、きっと先輩はこんな意地悪な言い方はしなかっただろう。
私が、一緒だったから……。
何も言えずに、知宏と一緒に黙り込んでいると、浅野先輩の後ろから澪先輩が顔を出した。
ここで否定するよりも、そういうことにしておいた方が後々面倒くさくなくていいのかな。
私は反論するのをやめて、頭を下げた。
笑顔で労う澪先輩の言葉に、嬉しくなったのも束の間。
浅野先輩が、にっこり笑って嫌味をひとつ。
──浅野先輩は、私にだけ意地悪だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。