1人と1匹の生活にも慣れてきたある日の事。
あなたがいつものように廊下を歩いていたら、厄介な人物に捕まってしまった。
はぁ…とあなたは至極興味がなさそうに相槌を打っていたが、美味しい料理、と聞いてあなたの肩に乗るグリムが黙っているはずがなかった。
そう言いながらも、この1人と1匹、特にフロイドに逆らうとロクな事がないのは分かっているので、あなたは渋々ながらも行く事にした。
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そして夜7時。ちょうどモストロ・ラウンジがオープンする時間に、あなたはその入り口に立っていた。
すると、「モストロ・ラウンジへようこそぉ。」という間延びした声と共に、カランカランと音を立てながら扉が開けられる。
ご褒美、と聞いて耳をピンと立て目を輝かせるグリムを単純な狸だなぁ、と思いながらあなたはフロイドに案内されて店内に入る。
店内はぐるりと水槽で囲まれていて、その中を多種多様な魚が泳いでいる。
間接照明で照らされるテーブルやソファはお洒落で、そしてそれなりに値が張る物だというのも一目で分かった。
会話を邪魔しない程度の音量で流れるジャズを聴きながら、あなたはほうとため息を漏らした。
だってアズールさんって趣味悪そうですし…という言葉が喉元まで出かかって、でもギリギリの所で飲み込んだ。
そして「何の話ですかね…?」ととぼけてみせればフロイドはじとっとした目付きであなたを見た。
と、そこでバタバタとオクタヴィネル寮生がこちらに駆け寄ってきた。
今がチャンスだ、と思いあなたはそう言いながら残念がるフロイドから少しずつ距離を取る。
しかしそんなあなたをフロイドが逃がすわけがなく、ガシッと手首を掴まれた。
あなたはそう言いながらフロイドの手を振り払おうとするけれど、やはり力の差が大きくずるずると引っ張られてしまう。
魔法を使えばもちろん一瞬で逃げられるのだが、ここでは他の人の目があるし、もしここで逃げたらフロイドを呼びに来た寮生さんが可哀想な事になるのは目に見えているので、諦めてついて行った。
バァン!と大きな音を立てながらフロイドは扉を開けズカズカと中に入っていく。
扉に掲げられた「VIPルーム」という札を思い出しこんな態度で入って良い部屋なのだろうか、と思いながらあなたは「失礼します…。」とフロイドの後に続いた。
そこにはげっそりとした顔のアズールとジェイド、そして青地に黒いラインの入ったリボンを腕に付けた生徒が1人。
フロイドは普段中々見ない様子の2人を見てから、視線をソファに落ち着きなさそうに腰掛けるイグニハイド寮生へと移した。
あなたはともかく、フロイドにまで彼は引かれているけれど、それを気にせず彼は続ける。
そう言いイグニハイド寮生は腰を直角に折り両手で持った紙袋を差し出した。
フロイドは首を傾げながらそれを受け取る。
中身に興味があるあなたもすすっとフロイドに近づき中を見ようとする。
しかしなぜかそれをアズールとジェイドが必死に止めようとしてくる。
でもそんな言葉でフロイドが止まるはずもなく、むしろワクワクしながら袋を開けた。
そしてフロイドとあなたは一緒に袋の中を覗き込んだ。
あなたは日本にいた時の記憶を引っ張り出しその名前を言い当てると、失礼しますね、と袋の中身を取り出しバサッと広げた。
紺色のワンピースに、やたらとフリフリヒラヒラした白いエプロン。
一体誰がこんな服を好き好んで着るのだろう…とあなたがそれを眺めている横で、フロイドは顔を青くしていた。
どうやらアズールとジェイドはこの服にメンタルをやられたらしい。
確かにこんな服を着ろと言われたら気も滅入るでしょうね…とあなたが他人事のように考えていたら、フロイドが「あっ」と声を上げた。
意味深な笑みを浮かべチラッとこちらを見たフロイドに、あなたは嫌な予感を覚える。
あなたは暑くもないのに汗が一筋背中を伝っていくのを感じながら、フロイドの視線から逃れるように顔を逸らす。
しかしそんな事をした所で意味など全くなく。
予想通りの言葉にあなたは完全に固まった。
あなたは反論しようとするけれどフロイドに口を塞がれ何も言えなくなる。
その言葉を聞いた瞬間、アズールが生き返った。
バッと顔を上げるといつもの営業スマイルを浮かべマジカルペンを振るう。
キラリとアズールのマジカルペンが輝き2枚の金色の紙が現れる。
あなたの悲痛な叫びはフロイドの大きな手に吸い込まれていきイグニハイド寮生に気付いてもらえる事はなかった。
アズールは手慣れた様子で2枚の契約書にサインすると、くるりと紙を回しペンと共に感動している彼の前に差し出した。
あなたはフロイドに締められ何もできない状態で生徒がサインする所を見る事しかできない。
今すぐにでも魔法を使ってあれを止めたいけれど魔法を使えないのがもどかしくて、あなたは唇を噛み締めた。
アズールは2枚の契約書の内1枚を受け取ると金庫に大事にしまった。
そしてくるりと振り返ると、ニヤリと笑う。
* * *
どうも、『神っぽいな』聴きながら書いてます、カイです。
えー、今回長くなったのにストーリーほとんど進展してませんね、すみません…。
いや、気が付いたらこんなに長くなってたんですよ…(?)
あっちなみにアズールのユニ魔の詠唱は完全に捏造してますセンスないのには目をつむってください()
さて、お察しの通り次回はメイド服回になります。
こういうのって好き嫌い分かれますけど好きな人と嫌いな人、どっちが多いんでしょうか…。
今後の参考にもしたいのでぜひコメントで教えてくだs(((
それではまた次の話で。バイバイッ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。