第6話

11月14日
40
2019/10/11 23:36
「偽ってつづり続ける言葉になんの意味があったんだろうね。
随分むかしに僕は存在しなくなっていたのに。」



『晴れ渡った空に傘をさすようなものだよ。無意味と言ってしまえばそこまでだけれど、日除けにはなるんじゃないかい。』



「本来の役目はまったく果たさないままの自己満足、僕はそんなものが欲しかったんじゃない。誰かの理想になりたかった。例えば君とか。」



『それはまた難しい話だね。造られた美しさを知ってしまえばそれまでだよ。向上は望めない。』



「儚ければ儚いほどそれは僕の描いた形だ。
儚さをこの手で生み出す方法なんてそこら辺に転がっている。僕はたまたまそのうちのひとつを拾ってしまっただけだ。」



『じゃあ、ミロのヴィーナスみたいに何か捨てればいいさ。両腕を捨てた彼女はとても魅力的だと思わないかい。』



「そうだね。失わなければ得られないものもあると誰かが言っていたよ。·····確かに僕には無駄が多すぎたみたいだ。」










_______________君がいらない。








『え?』



僕はずっと君を追いかけていた。追いかけるものがなければ、こうやって苦しむこともないのに。

「ああ、おっかしいなぁ。」

こんな単純な定理が分からなかったなんて、フェルマーに笑われてしまうよ。

君の存在が僕を縛り付けていたんだ。


プリ小説オーディオドラマ