その優しい手が好きだった。
その手で撫でてくれるととても心地よかったし、不安なときでもお姉ちゃんの手を握れば安心できたから。
その優しい声が好きだった。
やわらかくて、少しくすぐったい声。
いつもその声で褒めてくれるし、楽しいお話をいっぱいしてくれたから。
他にも、たくさん。
私は、お姉ちゃんが大好きだった。
ああ、なんて幸せ。
なんて、幸せだったのだろう。
鳥羽蒼という、尊い人を殺してしまうまでは。
* * * * *
中学に上がった頃。
最近のお姉ちゃんは、とても幸せそうにしていた。
もともと幸せそうにしている姉であったが、最近はより一層幸せそうに見える。
特に、携帯を眺めている時。
お姉ちゃんは自分の人差し指どうしをツンツンと合わせながら、耳を赤らめて言った。
かれし。····彼氏?
驚きのあまりずいっとお姉ちゃんの方へ乗り出すと、お姉ちゃんは今度は頭のてっぺんから首まで赤くしてコクコクと頷いた。
あまり見ないお姉ちゃんの表情に少しニヤニヤしながら、私はお姉ちゃんに問う。
するとお姉ちゃんはほっと一息ついてから楽しそうに話し出した。
へへ、とお姉ちゃんは幸せそうに笑った。
いいな、お姉ちゃん。すごい幸せそう。
なんだか私まで幸せな気分になっちゃう。
再び顔を赤らめるお姉ちゃんを眺めながら、私はふっと笑って言う。
するとお姉ちゃんは一瞬だけきょとん、としてから優しくふわりと笑った。
そのはにかむような優しい笑顔が、私の一番のお気に入り。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。