ぱちり、と目を開ける。
そこには変わらず無機質な白い天井。
鼻をかすめる薬品のニオイ。
あぁ、なんて目覚めの悪い部屋。
隣のベッドに座る私の友人、峯遥香は、私を不思議そうに見つめていた。
私がそう言うと、ハルちゃんはそっか、と言って笑う。
静かで寂しい病室に、朝日が差し込んだ。
* * * * *
私は小さい頃から病弱で、いつも病院の入退院を繰り返していた。
だから学校に行っても「誰?」の一言で終わる。
運動できないし、友達できないし、いっつも検査とか薬ばっかり。
私は自分の身体に嫌気が差していた。
でも、そんなある日。
私はハルちゃんと出会った。
ハルちゃんは、生まれてからずっとこの病院の別病棟にいたらしい。
そしてハルちゃんは病状が変わって、私がいる病棟へとやってきた。
生まれて初めての同じ年で同じ病室の子。
どうやら私よりずっと重い病気らしい。
だから尚更、鬼ごっことか駆けっことか一緒に出来るわけじゃなかった。
だけど、それでも同じ境遇の子に出会えて、凄く嬉しかったことを覚えている。
そんな感じで人生で最高に浮かれていた私は、引っ込み思案だったハルちゃんに一方的に絡み続けた。
それはもう、暑苦しいくらいに。
結果、ハルちゃんは私に心を開いてくれたのだが。
そうやってクスクスと笑い合ったのを今でも覚えている。
友達なんていなかったから、おそろいなんてしたことあるわけなくて。
だから、名前でもおそろいが嬉しかった。
自分の名前を呼ばれること、他人の名前を呼ぶこと。
それらがこんなにも心をくすぐるものだなんて、この時初めて知った。
伸びをしながら診察室を出て、自分の病室へと向かう。
あそこは無機質な所だが、案外日当たりはあるしハルちゃんもいるし少しだけ心地よかったりする。
診察が終わったのか、道の先でハルちゃんが嬉しそうに手を振っていた。
私はそれを見て、ハルちゃんの方へ駆け出す。
心配そうに私を覗くハルちゃんに、私はへらりと笑う。
するとハルちゃんは嬉しそうに笑って、そっか、と呟いた。
私がそうやって手を差し出すと、ハルちゃんはいつものように握り返してくれる。
ああやっぱり。
ハルちゃんといると、いつも心がくすぐったい。
私は、この幸せをゆっくりと噛み締めながらハルちゃんと一緒に病室へと歩いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!