第7話

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2020/04/25 05:05
鬼を滅する、鬼の為の〝鬼殺隊〟


遊郭の店で、


客からそんな話を耳に挟んだことがある。


でも、本当に存在したのか───────


その時は、鬼なんて、いないだろうし。


その話も、単なるお伽噺か何かと思っていた。


でも、もしこの人がその鬼殺隊なら、


もしかしたら─────────
『…何か、悩んでいることは無いか。』


「…!な、いです。大丈夫ですので。」


『だが、お前から〝鬼〟の気配がする。』
「…!!」


『お前ではない、染み付いたもの。』


『鬼に、何かされているのではないのか。』


「…!大丈夫です、本当に、」


「鬼とか、知りません。もう、やめて。」


『………そうか。』


「失礼します。」


『…………。』


彼は、深く、咎めなかった。


私が立ち去ろうとしても、


何も言わなかった。


良いんだ、これで。


累が殺される訳がない。


それで彼…冨岡さんまで死んでしまったら、


そんなの、最悪だ。


私一人の自殺願望に、他の人を殺させたくない。


私は、ギュッと拳を握り、歩きを速めた。




それから、少しして、昼頃。


焼き鳥のようなものを買って、


少し広めの路地で休む。


じゅわりと肉汁が口の中で広がり、


衣と皮の感触、肉の感触はとても良くて、


美味しいの一言に尽きた。


それから、


また歩く。町を迂回して、反対側の店を見る。


雑貨などを見たり、勧められたり。


ふと思う。


私が、遊郭なんかで働かず、


死にたい、だなんて思わなくて、


極一般的な家庭で、家族が居て、


誰かとご飯を食べて、服や装飾を買って、


愛する人が出来たり。


そんな人生を、送れたら。





──────────否。


その願いは、今世では叶わないだろうな。
来世、もし私に記憶が残っていたら。


平和な生活を送りたい。


貧しくても、それであって幸せなら構わない。


何か〝幸せ〟を、見付けたかった。
そんな考えから目が覚めて、気付くと。


辺りは紅く染まり、美しい夕焼けが見えた。


あぁ、しまった。


ここから山までは時間が掛かるし、


日が暮れてしまう。


意図的ではなくとも、


累は迎えに来てしまうかな。
…そんなことより、足を進めよう。
ゆっくり、段々と日は沈んでいくけれど。




山に足を踏み入れた時には、辺りは暗く、


もう夜、夜中なのではないかというほど。


『ハッ,ハァッ,ハッ,…』


かなり急いだつもりだが、


何分着物で、履物も草履。


走りにくく、何より体力が消耗される。


息はもう切れていて、


踏み入れた時には、歩く他無かった。
その時だった。





『……助け………て』

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