鬼を滅する、鬼の為の〝鬼殺隊〟
遊郭の店で、
客からそんな話を耳に挟んだことがある。
でも、本当に存在したのか───────
その時は、鬼なんて、いないだろうし。
その話も、単なるお伽噺か何かと思っていた。
でも、もしこの人がその鬼殺隊なら、
もしかしたら─────────
『…何か、悩んでいることは無いか。』
「…!な、いです。大丈夫ですので。」
『だが、お前から〝鬼〟の気配がする。』
「…!!」
『お前ではない、染み付いたもの。』
『鬼に、何かされているのではないのか。』
「…!大丈夫です、本当に、」
「鬼とか、知りません。もう、やめて。」
『………そうか。』
「失礼します。」
『…………。』
彼は、深く、咎めなかった。
私が立ち去ろうとしても、
何も言わなかった。
良いんだ、これで。
累が殺される訳がない。
それで彼…冨岡さんまで死んでしまったら、
そんなの、最悪だ。
私一人の自殺願望に、他の人を殺させたくない。
私は、ギュッと拳を握り、歩きを速めた。
それから、少しして、昼頃。
焼き鳥のようなものを買って、
少し広めの路地で休む。
じゅわりと肉汁が口の中で広がり、
衣と皮の感触、肉の感触はとても良くて、
美味しいの一言に尽きた。
それから、
また歩く。町を迂回して、反対側の店を見る。
雑貨などを見たり、勧められたり。
ふと思う。
私が、遊郭なんかで働かず、
死にたい、だなんて思わなくて、
極一般的な家庭で、家族が居て、
誰かとご飯を食べて、服や装飾を買って、
愛する人が出来たり。
そんな人生を、送れたら。
──────────否。
その願いは、今世では叶わないだろうな。
来世、もし私に記憶が残っていたら。
平和な生活を送りたい。
貧しくても、それであって幸せなら構わない。
何か〝幸せ〟を、見付けたかった。
そんな考えから目が覚めて、気付くと。
辺りは紅く染まり、美しい夕焼けが見えた。
あぁ、しまった。
ここから山までは時間が掛かるし、
日が暮れてしまう。
意図的ではなくとも、
累は迎えに来てしまうかな。
…そんなことより、足を進めよう。
ゆっくり、段々と日は沈んでいくけれど。
山に足を踏み入れた時には、辺りは暗く、
もう夜、夜中なのではないかというほど。
『ハッ,ハァッ,ハッ,…』
かなり急いだつもりだが、
何分着物で、履物も草履。
走りにくく、何より体力が消耗される。
息はもう切れていて、
踏み入れた時には、歩く他無かった。
その時だった。
『……助け………て』
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。