第8話

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2020/05/01 04:00
「え…?」


『…応援じゃ…ない…のか…』


目の前に、ふらふらの状態で現れたのは、


冨岡さんに似た隊服を来た男性だった。


よく見ると、怪我と出血が酷く、


ぽたぽたと血が落ちていく。


「だ、大丈夫ですか、傷が─────」


『逃げ…ろ、鬼が、出る…』


…知っている。


なんて言えない。


ごめんなさい、話を変えるわ。


「貴方の方こそ、出血が酷い。」


「だから今すぐ山を…」


せめて、逃げて。


死んでほしくない。


『いいや、出来ない…。』


「どうして!?死んでしまうわ!」


思わず声を荒げてしまった。


このまま失血死なんて、嫌な筈なのに。


彼の、何が、そこまでしているの。


『俺は、鬼殺隊だ、から。』


『鬼を、仲間を見捨てて逃げるなんて、』


『出来ないんだ。』


「…ならせめて、手当…」





グキッ




その音と、共に、


彼の首は回り、倒れた。


首が、反対の方向に向いて、倒れたんだ。


数秒間、何も考えれなかった。


目の前で、人が亡くなったから。


一体誰が、なんで、


累…じゃない。


累なら糸で切り殺す。


なら、一体…


『あら、貴女、まだ生きていたの。』


「…!」


目の前に現れたのは、『母』役の鬼だった。


『そう固くならないで?貴女は累のお気に入り。』


『手出しはしないわ。』


嫌われている、妬ましく思われている。


この鬼の目付きで分かった。


「どうして、この人を───────」


『どうしてなんて、そんなの』


『私達が鬼だからよ。』


「そう、ですね。」


鬼は食べねば死んでしまう、そうだけど。


『死にたくて来たと聞いたわ。』


『早く死んで、餌食になればいいのよ。』


「…っ………」


心から言ってるように聞こえる。


『所詮、身も心も汚れている小娘でしょう』






『早く、消えればいいのよ。』
「………ぁ……ッッ、」


逃げた。とある物を拾い、私は、耳を塞いで。


止めて、嫌だ、怖い。


死にたいのに、居なくなりたいのに。
あんな強い心をあっさり折られて、


罵倒されて、どうしてしまったんだろう。


『…おかえり、あなた。』


「…ぁ、る、い。」


もうここまで走ったのか。


累の家に着いていたのだ。


累は相変わらず爽やかな顔を浮かべて、


笑い掛けてくる。


でもその笑顔も一瞬で、


すぐに勘づいたように、


『…どうしたの、何かされたの。』


「いいえ、大丈夫よ、少し…疲れたから。」


「休んでくるわ、」


『…そう。また、明日。』





「えぇ。」







部屋に逃げるように入り、


ボロボロの障子を閉める。


累に、悟られていないと、いいけど。




それから、足や体が痛んだ。


筋肉痛、というやつかな。


久し振りに随分歩いて、走ったから。
…眠ろう、それしかない。


あの鬼殺隊の方も、頭から離れないし、


母役の鬼の言葉も忘れられない。


それから、冨岡さんの言葉も。





私は、どうするべきなの?

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