第9話

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2020/05/07 08:59
もう夜遅く、日の明ける二時間前。


外から叫び声の様な声が聞こえて、


思わず飛び起きてしまった。


でも、聞き間違いだったのか、


その声を後に、叫ぶ声は聞こえなくなった。


なんとなく、気になって、


窓の外を覗いた。






そこには、



血だらけの『母』役の鬼が倒れ、


累はその目の前に立っていた。


その累の横顔は、おぞましく、


時々見える、本当の鬼の顔だった。


思わず窓から離れて、耳だけをすます。



そうして聞こえてきたのは、
母『なにも…して…ない…わ…ッ、』


累『…あなたはね、人は繊細なんだよ。』


『何もしてなかったら、あんな顔、しないんだ。』


『それに、外に出た家族は母さんだけ。』


母『ほ、本当に何も───────』


累『うるさいよ、分かってるからね。』


『父さん、呼んでも良いの?』


母『や、やめ…それだけは!それだけはやめて…!』


累『じゃあ、何したの?』
母『何も、して、ないの、』


『ただ、山に入った人間を殺しただけで…』


累『……あなたの、…前で?』


思わず、名前が出て、外を小さく覗く。


母『そ、それがなぁに?何が悪かったの?』


累『うるさい、分からないのが悪い。』


すると、累は手を振りかざして、


彼女の全身を糸で切り裂いた。


恐ろしいのと同時に、不思議だと思ったのは、


悲鳴が上がらなかったこと。


ならさっきの悲鳴は一体何だったの…?


ゆっくり、視界を広げる様に、外を見た。





驚いて、目を見開いてしまう。




その理由は、


彼女が、切られて傷だらけの手で、





自らの口を塞いでいたから。





その意味が分かってしまった瞬間、


冷や汗と共に、背筋が凍った。




うるさい、と言われたから?


そんな理由で、口を塞ぎ、痛みを我慢したの?





その時、


私には、生きている自分への嫌悪感と、


鬼であろうと、私のせいで傷つけられる彼女への、


罪悪感が現れたのだった。





そして、私はあるものを手にし、決意する。







累を、








殺すことを。

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