もう夜遅く、日の明ける二時間前。
外から叫び声の様な声が聞こえて、
思わず飛び起きてしまった。
でも、聞き間違いだったのか、
その声を後に、叫ぶ声は聞こえなくなった。
なんとなく、気になって、
窓の外を覗いた。
そこには、
血だらけの『母』役の鬼が倒れ、
累はその目の前に立っていた。
その累の横顔は、おぞましく、
時々見える、本当の鬼の顔だった。
思わず窓から離れて、耳だけをすます。
そうして聞こえてきたのは、
母『なにも…して…ない…わ…ッ、』
累『…あなたはね、人は繊細なんだよ。』
『何もしてなかったら、あんな顔、しないんだ。』
『それに、外に出た家族は母さんだけ。』
母『ほ、本当に何も───────』
累『うるさいよ、分かってるからね。』
『父さん、呼んでも良いの?』
母『や、やめ…それだけは!それだけはやめて…!』
累『じゃあ、何したの?』
母『何も、して、ないの、』
『ただ、山に入った人間を殺しただけで…』
累『……あなたの、…前で?』
思わず、名前が出て、外を小さく覗く。
母『そ、それがなぁに?何が悪かったの?』
累『うるさい、分からないのが悪い。』
すると、累は手を振りかざして、
彼女の全身を糸で切り裂いた。
恐ろしいのと同時に、不思議だと思ったのは、
悲鳴が上がらなかったこと。
ならさっきの悲鳴は一体何だったの…?
ゆっくり、視界を広げる様に、外を見た。
驚いて、目を見開いてしまう。
その理由は、
彼女が、切られて傷だらけの手で、
自らの口を塞いでいたから。
その意味が分かってしまった瞬間、
冷や汗と共に、背筋が凍った。
うるさい、と言われたから?
そんな理由で、口を塞ぎ、痛みを我慢したの?
その時、
私には、生きている自分への嫌悪感と、
鬼であろうと、私のせいで傷つけられる彼女への、
罪悪感が現れたのだった。
そして、私はあるものを手にし、決意する。
累を、
殺すことを。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。