そう、少し心配そうに…そして、まるで幼子を見るような目をしているのは「澄空アユ」という少年。その目が捉えていたのは、「真珠ヶ淵マシラ」という、自分と仲のいい、いや、そんな言葉では表せないほど関係性が深い少女だった。
時計を見れば、短い針はすでに1を指している。勘違いされないために言っておくが、今は夜だ。カーテンを開けているのか開けていないのかという違いすらわからないほど、外は暗く、部屋の中にいてもときどき冷え冷えとした空気を肌に感じる。一つの白いライトだけが頼りになるその部屋にいる2人は、トランプを持っている。おそらく、カードゲームをしている最中なのだろう。その部屋は、窓がひとつと本棚、そしてライトしかない質素な部屋だったが、彼らには十分だろう。
そもそもめちゃくちゃ今眠そうにしてるじゃないですか…。と言いたいが、そんなこと言ったとて絶対に寝ないというのは目に見えている。
普通なら「どうしよう…」と頭を抱える状況。ただし、アユはこういう状況には慣れている。昔、妹もこのようにごねて、眠そうなのに寝ないということは多々あった。
はぁ、と頭の中で一息つく。そして、このような言葉を続ける。
少し子供に向けたような言い方だが、それでも大丈夫だと彼は判断したのだろう。
しれっと「可愛い」と言う発言をしているのがとても気になるのだがそこは一旦置いておくとしよう。
どんだけ眠いの我慢してたんですか…。と呆れそうになったが自分と話したいがためにここまで起きていた、と考えたら途端にすごく可愛く思えてきたのでよしとしよう。とりあえず、床で寝ているマシラをベッドまで移動しようと思い、立ち上がる。だが、彼女を運ぼうとした時、とある問題が生じる。
そう、それが1番の問題なのだ。彼女が重いとかそう言うのではなく、そもそも同年代の人を自分1人の力で運ぼうなんて無理がある。特に、彼は自分の力に自信がある、と言うわけでもない。
せめて、楽な体制にしてあげようと思い、固く冷たい床にある彼女の頭を自分の膝に乗せる。いわゆる膝枕というやつだ。
そういうと、彼は、眼鏡越しに映った少女の顔を、少し細められた目で見た。その目は、彼女ではなく、どこか、遠くて、寂しげで、そして、何かとても美しいものを見ているようにも見えた。
そう言った彼は、どこか諦めたかのように、乾いた口角を上げていた。
……妹にやれなかった分を、この少女にやりたいなんて思うのは、自己満足がすぎるだろう。
あまりにも都合が良すぎる話に、彼は、自分に対する呆れの表情を浮かべる。
さらりと、白い手が、彼女の透き通るような髪を撫でた。
それに対し、その少女は、安堵の笑みを浮かべた。
まるで、亡き兄が自分を撫でたかのような安心感に包まれながら、彼女は深い眠りへと落ちていく。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。