肌触りと風通しがいい、着心地のいい感触ではなく、きっちりとした、硬い感触が肌に触れている感じがした。
いつも頭にある少し硬めも弾力感がある枕ではなく、柔らかい何かが頭を、身体を、包み込んでる感覚がした。
いつもなら、常に耳の隣で囁いてくるクーラーの風も音も、聞こえないし、感じない。
全て、小さな小さな違和感だったが、「 何かがおかしい 」と感じさせるには、十分過ぎるだろう。
だけど、彼はそうとは感じなかった。
仕方ない。だって、この違和感を感じているはずの彼は、まだ完全に起きていないのだから。
と、そんな寝息が口から漏れる。
……しかし、人間の体内時計というのは、思ったよりも正確らしく。
そんなことをぶつぶつと呟きながら、眠そうな目から緑色の瞳をのぞかせる。
ふぁぁ……とあくびを彼は口から出す。
「学校」という単語が頭の中に浮かんだが、甘い甘い眠気が彼の頭を未だ支配している。
そういい、くるりと寝返りをうち、いつもあるはずの枕に手を伸ばす。
……違和感を彼の頭で処理し始めたのは、これくらいからだろうか。
一瞬で夢という名の心地よい海の中から一気に現実に引き上げられる。
はぁはぁと荒い息をつきながら髪が乱れるほど早く激しく頭を動かし周りを見渡す。
それが、彼が辿り着いた答えであり真実だった。
自分が今まで寝ていたところから、ダン!と音が出るほど強く飛び降り、誰もいないのをいいことに、そんな怒号を撒き散らす。
よく見ると、手は爪痕がつくんじゃないかと心配になるほど強く握られており、ふるふると震えていた。
顔を真っ赤にしながらついたのは、大きなため息。
そういうと、辺りを見渡し始め、何があり、ルールブックはどこにあるのか、と探し始める。
しかし、それは全く意味をなさなかった。
『 何もないんだよ……? 』
……通常。伯爵のゲームが始まる時は、施錠されたドアに、ルールブックがある棚や机などがある。
だけど、今回は本当に何もないのだ。
代わりに、辺りが薄紫色の濃い霧で覆われているだけ。
その霧は冷たく、彼の肌を撫で続けている。
濃いけれど、絶対に掴めなさそうな、そんな、星のような光が散りばめられている、そんな霧。
その星のおかげなのか、辺りが暗くなって周りが見えない!という事態は起こらなかったが、その霧の奥は何も見えない。
霧のせいで息苦しい……ともならなかったが、彼の息はあがっていた。
……これは、霧のせいではなく、彼の感情の変化が起こしたものだろうが。
再び、彼の手は震え始める。今度は、「 怒り 」ではなく、未知なものへ対する「 恐怖 」で。
どこにいるんだよ?と、そう震えた声で彼はゲームマスターと自身の幼馴染の名前を呼ぶ。
……その声に対する返答はあった。
しかし、それは彼が望む返答ではなく。
彼が見て驚いたのは、とある映像。
プロジェクターによって映し出されたかのように、霧の上にそれが流れている。
しかし、彼が驚いたのはそれではなく。
『 あの最初の人狼サバイバルの映像が……? 』
全ての始まりである5人と、とある館の映像が、そこには流れていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。