第41話

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2025/12/08 09:22 更新





生存者発表式





16位候補の三人が画面に映し出されたとき、会場の空気は一気に変わった。

照明の熱だけがやけに鋭くて、足元に落ちる影が揺れた。



拍手も歓声もあったはずなのに、その真ん中で二人の間だけ時間が立ち止まったようだった。









練習生の悔しそうな声や泣き声がスタジオに響く。




それぞれ別の場所で、他の練習生たちと話していた二人の視線がふと重なる。




数メートル先、人の影が揺れる中で、二人は同じように動きを止めた。


近づきたくても足が前に出ない。


その名前を呼ぼうとすれば、声が震えそうで、感情が溢れてしまいそうで、どちらも一歩を踏み出せなかった。



ほんの少しでも手を伸ばせば届く距離なのに、



周囲の動きに流され、二人は離れてしまった。











廊下は冷えていて、空調の音だけが耳に残る。


誰もいなくなっていく空間に、胸の奥の重さだけが濃く残った。





自分の部屋の前で立ち止まったまま、深く息を吸った。

このドアを開けたら、今日が終わってしまう気がして。


でも、立ち止まる理由はもう一つあった。




気づけば僕は隣の部屋の前にいた。


一度も変わることなく隣り合わせで過ごした場所。



でも、一度も入ったことのない場所。




ノックの音は自分でも驚くほど小さくて弱かった。


数秒の間が空いて、聞こえるいつもの声。




ゴヌ
、入ってもいい、?




ぎゅっと飲み込んだ緊張が声に滲んでいた。







彼女がドアを開けると、中は驚くほど静かだった。


視界の中に”生活の跡”が一つもなくて、

空っぽのクローゼット、何一つ置かれていない棚、ベッドには畳まれた布団があった。



まるで、最初の日に戻ったみたい。



片づけたのは今日ではないことは確かだった。


昨日か、それとももっと前からか、



気づいた瞬間、胸は痛みを増した。




ゴヌ
なんで、?



閉じ込めておくはずだった本音は、言うことを聞かずに零れ落ちた。




彼女は静かに笑った。


痛いほど苦しくて、それなのにどこにも涙は見えなかった。




ゴヌ
最後だから、ちょっと話してもいい?




その声に導かれるように二人は並んでベッドに腰を下ろした。


慰めの言葉も、励ましも、全部間違いに思えてしまって、

何を言えばいいか黙る僕の横で、



彼女は口を開いた。





 ︎︎
最後にね、伝えておきたいことがあって、
 ︎︎
好きだよ




それは涙も震えもないまっすぐな、彼女らしい言葉だった。



どこか寂しくて、静かな終わりの音のようでもあった。




目を合わせると永遠のように感じた。


返したい気持ちはずっと、ずっと胸の奥にあった。


同じ思いを抱えてた。


今こそ言うべき言葉だと、分かっていた。




でも、口を開いた瞬間、彼女は僕の口を塞いだ。




 ︎︎
言わないで、言っちゃだめ、
 ︎︎
口にしたら、現実になっちゃうから、





その表情は、泣いていないのに泣いているより苦しく見えた。



彼女の言いたいことは、痛いほど伝わった。


繊細で、真面目な、彼女らしい言葉だった。





僕は唇を噛んだまま、何も返せなかった。


僕が考えていた未来はこんなものじゃなかったはずだ。




少しの沈黙のあと、僕はかすかに声を絞り出した。





ゴヌ
、じゃあ、キスしてもいい、?
ゴヌ
最後だから、




今にも泣きだしそうな声で振り絞った僕の声は、静かな部屋に響いた。






 ︎︎
だめだよ、
 ︎︎
いま何も言わないで、何もしなければ、何も始まらないの
 ︎︎
ただ私があなたを好きだって事実だけ残るの、
 ︎︎
それでいいの、それじゃなきゃ、だめなの、






彼女の声も、震えていた。




どこまでも、同じ気持ちだったみたいだ。









廊下の奥で、スタッフさんの声が響く。





「もう行かなきゃ」と言って立ち上がった彼女とは、



もう二度と目が合うことはなかった。








残された部屋は、僕一人。


何もなくなった空間で、ようやく息を吐いた。


視界が滲み、頬を伝う涙を止めることはできなかった。





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