彼らの冷ややかな視線が、店長に向けられる。
怒っているのか、拗ねているのか。
店長は両手を前に出して、何やら弁解を始めた。
店長は苦笑いを浮かべ、頭を掻きだした。
慧斗くんはなぜか、照れくさそうに目を泳がせる。
純弥さんが、店長の肩を叩いて笑う。
事情が分かっていないのは、私だけだ。
考えている間にも、純弥さんはテーブルの上にある残りの試作品に気付いて、椅子に掛けた。
そう語って、ガトーオペラを口にする。
その言葉を聞いた慧斗くんも席に着き、同じように試食した。
彼のOKが出れば、これで完成だ。
満場一致で、期間限定の新作スイーツが完成した。
いつもこの瞬間は、「早くお客さんにも食べてもらいたい!」という気持ちで、胸が一杯になる。
店長と慧斗くんが、閉店作業をしながらそう話し合う。
純弥さんはエスプレッソマシンの手入れをしながら、フロアの掃除をする私の方へと体を傾けた。
考えてもいなかった質問にきょとんとすると、店長と慧斗くんが同時に手を止めた。
【第9話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。