その場にくるりと一回りした、にれくんは制服にタグを付けたままだった。
桜「タグ、付いてるぞ」
私が言う前に遥が注意してくれて、にれくんはその場に寝転びながら、タグをとっている。
そして立ち上がったと思えば、遥の顔を見て、不思議そうに首を傾げている。
楡井「そっちこそ見たことない顔っすね!もしかして、街の外から来たんじゃないすか!?」
さすがは、にれくん。
お得意の洞察力と情報力で、風鈴高校の情報は、だいたい網羅している男だ。
そして、やはり外見に目が入ったらしい。
楡井「その髪にその目!」
桜「……なんだよ」
楡井「ストレスっすか。大変ですね」
完全にマトが外れた顔だ。
もっと何か言われるのだと思っていたのだろう。
その瞬間、私とことはは馬鹿みたいに笑ってしまった。
桜「おい!!」
ことは「ごめんごめん。にれー、この子は桜よ」
あなた「そうそう、桜遥!!」
桜「フルネームで呼ぶんじゃねぇ!」
ことは「で、こっちは楡井」
やっぱり、にれくんは桜みたいな外の人間が風鈴にきたことに疑問を持っているみたいだ。
ちなみに、私も外から来た人間なんだけど、5年前くらいからこの街にいるから、もう外の人間扱いされなくなった。
ま、遥もその内異常者扱いはされなくなるだろう。
すると、にれくんは時計に目を向け、ことはの美味しいモーニングを食べずに、出て行こうとしてしまう。
なんでも、入学式が始まる前に3週も街の見回りに行こうと思っているのだとか。
楡井「今日からオレも、正義の味方っすから」
いつものにれくんじゃない。
ボウフウリンの、にれくんだ。
かっこよくなったのがちょっとグッときて、感動しそうになりながら、私はフレンチトーストの最後の一口を頬張る。
店先でコケたみたいだけど。
ことは「ね?面白い子いるでしょ?」
桜「あぁ、おもしれぇな!あんな人の話聞かねー、ただのドジ初めてだぜ!」
あなた「にれくんは、ある意味対象外というかなんというか……」
面白いランキングとかドジ部門で1位取るぐらいかな。
ま、私もにれくん見習って、見回り行きますか。
私はことはに代金を手渡すと、コーヒーをグビリと飲んで、椅子から飛び降りる。
あなた「じゃ、私ももう行くわ」
ことは「見回り?」
あなた「そーそ。じゃあ、遥は入学式遅れてこないでよー?」
桜「んな心配してくんな!」
そんなこと言われてもね。
私は手をひらりと軽く振ってから、ポトスを後にしたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!