あなた「恵っ………!!!」
目の前に広がる真っ赤な飛沫。それは紛れもなく、恵の頭部から流れる鮮血だった。
そんな恵にもう1発入れようと、大きく振りかぶる呪霊に、私は容赦なく“熔化光”をぶつける。
呪霊「なっ……!?こ、れは…………カハ…ッ」
“熔化光”の予想以上の呪力に驚いたようにそう呟くと、口から血を吐いて屋上に四肢をついた。
その隙に私は恵を抱えると、素早くその場から距離をとる。
呪霊「…いい判断だな。よく私の攻撃に気づいた。」
あなた「めぐみ……、ねぇっ恵!!」
棘「あなた…1回落ち着いて、」
棘先輩は後ろから私の肩を掴んで止めるが、私の意識も声も全て恵へと向けられていた。
恵「……これぐらいで死なねぇよ。平気だって、」
閉じていた瞼がゆっくりと開き、ぼんやりとしたまだ焦点の合わない瞳で、恵は私にそう告げた。
あなた「でも……でもっ、出血が止まらなくて、」
恵「直に止まるから。とりあえずお前は落ち着け。」
あなた「やだっ……、恵。恵…っ!」
恵の声も届かず、私は首をひたすら横に振って唸り続ける。
パシッ
そんな私の手首を掴む力の強さに、私はその主を見る。
恵「……落ち着けって、」
あなた「恵……。」
恵「あなた考えろ。お前が今すべき事は何なのか…。」
恵の真っ直ぐな言葉と視線が、段々と私の乱れた心を静めていく。
私の、すべき事は________
あなた「………あいつを、倒すこと。」
恵「ちゃんと分かってんじゃねぇかよ…」
ギュッと、握る手に力を込められ、私も応えるようにその手を握り返す。
くよくよしてる場合じゃない…。あの怪物を、何がなんでも倒さないといけないんだ。
私はそっと立ち上がり、鋭い視線を呪霊へと向ける。
呪霊「やっと戦う気になったか。…これだから人間の心は脆く、弱々しい。情を掛けるなんぞ無駄でしかない。」
あなた「それは違う。」
自分の言葉を、思考を、理論を否定された呪霊は、バッと顔を上げて私を見つめ返す。
あなた「…大事な仲間を失いたくないって思うから、大切な人を守りたいって思うから、私は強くなれる。」
呪霊「……理解できんな。」
あなた「……なら、堅苦しいあんたの頭でも理解できるような証明、してやるよ。」
________思い出せ、あの時の恵を。
八十八橋の事件で恵と私、悠仁と野薔薇が別れて戦ったあの時…。
頭部から血を流しながら、今まで見たことの無いように笑う恵に初めて“怖い”と感じたあの時。
あなた「……私だって、やってやる。」
自分の思うがままに片手を空にかざして、指を組む。
想像しろ。もっと自由に…限界を超えた未来の自分を。
あなた「術式展開、“ 金碧輝煌”」
瞬間、白い光が私と呪霊をその球体の中に閉じ込めた。
棘「ツナっ!!(あなたっ!!)」
棘先輩が叫ぶ声も、今の私には届かなかった。
白い光の空間に、私と呪霊の2人だけ。
呪霊「……お前、これが初めてだな?」
領域を展開されても尚、態度を崩さない呪霊はさすがは特級としか言いようがなくて、
きっと今までも領域展開は受けてきたんだろう…と察する。
…となったら、相手も領域展開が使えるのかもしれない。
あなた「領域を展開される前に倒さないと…」
そう覚悟を決めると、私はこの空間の発光に身を隠す。
呪霊「撹乱か。逃げているだけでは私を倒せんぞ。」
霧のように白く先を見通せない眩い光が、視界を狭める。
発砲音で居場所を察知される事を恐れた私は、胸元に伸ばした手を止めて、手の平をかざす。
あなた「融解溶明、“露光弾”!!」
周囲の光よりも更に眩しく熱い光の弾が、私の手から放たれ、曲線を描きながら呪霊の脚部にヒットする。
領域内で発動した術者の術式の絶対命中。
これも、領域展開の大きな特徴の1つだ。
そのまま体制の崩れた胴体に一気に近づき、私は最大限の呪力をその手に集める。
あなた「これで…終わりだ!!」
がら空きの胴体に、手の平を思いっきり広げて伸ばした。
呪力が今にも溢れ出して、己の手までを溶かしてしまいそうな程、熱い自分自身。
呪霊「甘い……!」
その伸ばした私の腕を掴み、バキッと中の骨が折れる音が耳にハッキリと残った。
握りしめられる痛み、折られた部位、骨が腕の内側の肉に突き刺さる絶痛の感覚。
あなた「ぐっ………、!!?」
続けざまに頭にも重い一撃が加わり、頭がクラクラとジンジンとして、響く痛みとうるさいのが私の思考を支配した。
…だが、その痛みに恐怖に、私は怖気ずくことなく、頬を伝っていく生暖かい鮮血を拭わずにそのまま突っ込んだ。
呪霊「な、んだと……っ!?」
私を視界に捉えて大きく開けたその目が、今触れた硬くゴツゴツとした身体が、記憶の中にこびりついた。
…きっと一生、この光景を忘れないんだろうな。なんて思いながら、私は溜めた呪力を一気に押し出した。
あなた「融解溶明…“熔化光”!!!」
その直後、周りの白い光と同化するように、呪霊が白い光に包まれて熔けていった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。