春の気配が、
まだ冷たい風の中に
混じっていた。
卒業式の日。
テヒョンがいなくなる、
という実感は、
不思議と薄い。
同じ学園に残ると
分かっているからか、
それとも、俺が現実から
目を逸らしているだけなのか。
それでも、
胸の奥はやけに静かで、
少しだけ、
空洞みたいに広がっていた。
テヒョンのいない学校で、
あと2年。
その時間を想像すると、
どうしようもなく長く感じる。
__だから、せめて今日くらいは。
俺は、数日前から
用意していた花束を抱えて、
寮を抜け出し、
校門の前に立っていた。
在校生は卒業式に出られない。
だからこうして、
外で待つしかない。
時間だけが、
やけにゆっくり過ぎていく。
先に出てきたのは、
見慣れた二人だった。
jh「お、ジョングクじゃん」
sc「早いな〜、お迎え?」
呑気な声で笑う先輩たちに、
俺は少しだけ肩の力を抜く。
jk「テ…、先輩、まだですか?」
sc「中で捕まってるよ、女子に」
jh「モテ男はつらいねぇ〜」
軽口みたいに言われたその言葉に、
胸の奥がちくりと痛む。
……分かってる。
テヒョンが人気者なのは、
今さらだ。
それでも、少しだけ、
面白くないと思ってしまう
自分がいる。
そんな感情を
飲み込んでいると、
校舎から人が出てくる。
人混みの中から
現れたその姿を見た瞬間、
他の全部がどうでもよくなった。
jk「……先輩」
気づいたら、
走っていた。
距離なんて、
あっという間に消える。
目の前に立ったテヒョンは、
いつも通りの顔で、
でもどこか、
少しだけ柔らかく笑っていた。
俺は何も言えずに、
ただ花束を差し出す。
jk「…卒業、おめでとう」
ほんの少しだけ震えた声。
テヒョンはそれを受け取って、
一瞬、目を細めたあと___
そのまま、俺を抱きしめた。
v「……ありがとう」
低い声が、
耳のすぐ近くで落ちる。
体温が伝わってきて、
離れていく未来なんて、
嘘みたいに思えた。
そのまま、
ふっと体を離したかと思えば、
軽く、唇が触れる。
一瞬の、でも確かなキス。
周りの空気が一斉にざわつく。
「え、今のって……」
「ちょ、嘘でしょ……?」
後ろから聞こえる声なんて、
どうでもよかった。
ただ、目の前の
テヒョンだけを見ていた。
テヒョンは
少しだけ悪びれもなく、
でもどこか誇らしげに笑う。
v「……ちゃんと、
迎えに来てくれたんだな」
jk「……当たり前じゃん」
少しだけ拗ねたみたいに返すと、
テヒョンは、
また優しく目を細めた。
春は、別れの
季節だなんていうけど。
俺にとってこの日は、
終わりじゃなくて___
きっと、もう一度、
ちゃんと隣に立つための
“はじまり”だった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。