第22話

オーディション
840
2020/01/31 15:47
スタッフ
黒崎君、おはようございます!!
スタッフ
今日はよろしくお願いします!
黒崎 柚
よろしくお願いします…
髪をしまって帽子を被り、コンタクトを取る。
こんな俺が世間には知れてて人気なのか…。


そう思うと、改めて何だか少しモヤッとした。


俺、本当は女なんだけどな……
漣 和久
来たか、こっちだ。
黒崎 柚
ジジイ…ほんと覚えとけよ。
漣 和久
ああ、いつもお前に恨まれてることくらい分かってる。
そう言い残すと、ジジイは歩き出し俺はポケットに手を突っ込みながらその後を追った。
それが実の娘に言う言葉かよ…
漣 和久
用紙見た限りだと印象はどうだ。
黒崎 柚
小さくてもとにかく経歴の数を持っとけばいいって思ってる奴が多すぎ。数なんか関係ねぇのに。
漣 和久
まぁ、確かに。俺も見たけど、細々とした経歴の応募者が多い印象だ。
黒崎 柚
俺、審査するなら本気でやるから。俺の中での合格者が出なくて0人になったとしても文句言うなよ。
漣 和久
分かってる。
いつも通り、返ってくるのは"分かってる"。
本当に分かっているのかは俺には分からないけど。
夕凪 朱璃
あ、漣さん!おはようございます!夕凪朱璃です。今回は私に声をかけてくださりありがとうございます。期待に応えられるように全力を尽くしますのでどうぞよろしくお願いします。
ジジイを見て、軽い自己紹介と共に会釈。
今話題の女優、夕凪ゆうなぎ朱璃あかり。今年で確か17歳。
17歳と言う若さでドラマの主人公に抜擢されたことから段々と有名なった…だったと思う、多分。
どっかの劇団にも所属してるとか聞いたことあるような気もするが、興味無いから名前は覚えてない。
夕凪 朱璃
そのお隣の方は誰ですか?
漣 和久
黒崎錬、今回のオーディションを手伝ってもらうことにした。
黒崎 柚
黒崎です。
夕凪 朱璃
黒崎錬君って…あの黒崎錬君ですか?きょ、今日はよろしくお願いします!
黒崎 柚
よろしくお願いします。
朱璃さんと俺の身長差は同じくらいか俺の方が少し高いくらいだった。
まぁ、ネットで見た時に思ったのとあまり変わらない身長差だ。
黒崎 柚
……。
漣 和久
何してる、行くぞ。
黒崎 柚
……分かって"ます"よ。
絶対にこいつに対して使いたくない敬語でそう言い返すと俺はジジイ、朱璃さんと一緒にオーディション会場に向かった。
入るなり映画の監督がジジイに会釈をして、何やら話している。俺は朱璃さんと待つことになるのだけれど…
夕凪 朱璃
錬君は今年で…15歳になるのかな?
黒崎 柚
まぁ、はい…
夕凪 朱璃
受験とかで忙しくなるのにわざわざ来てくれてありがとう。
黒崎 柚
別に…俺は何処でも合格するんで。
俺がナルシストだから言ったのではない、事実だから言えたのだ。
いろんなところの過去問を解いてみたが、全部満点で学校の内申もオール5だから問題無い。
おそらく、都立でも私立でも合格できる。
夕凪 朱璃
そっかそっか、錬君頭良いもんね。
そう朱璃さんは微笑んだ。
内心はどうせウザがってるだろうけど、知らない。
俺は俺として生きるまでだ。
他者の俺に対する口出しは許されない。


やがて、ジジイの話が終わり監督とジジイがオーディションを受ける人達に軽く話をすると、スグに本番は始まった。
女子
「ねぇ、待って!何でそんなことをしたの!?嘘つかないって私達と約束したじゃん!」
足を開き、腕を開き、表情を歪める。
こいつ、ナメてんのか?
演技だということが手に取るように分かる。
何で俺達の方を気にしてんだよ。
漣 和久
どうだ?
夕凪 朱璃
う〜ん……微み ────
黒崎 柚
演技がわざとらしい。あとこっちを気にして芝居に集中していないように俺には見える。俺は無しだ。
その後もハズレの連発だった。
どういうつもりでオーディションに参加したのか気が知れない。帰りたい。
でも、何人か俺の中でまぁ他と比べたら良い方の人は何人かはいた。
ラスト。ついに待っていた人がやって来る。
仲井 知歌
よろしくお願いしますっ!
黒崎 柚
……。
出席番号19、仲井なかい知歌ちか
演劇部所属で演劇に集中する為に委員会は無し。
見た目だけだと完全の陰キャ。
しかし、風の噂では演劇にはうんざりする程うるさいらしく、またうるさくてもその腕は部でトップだとか何だとか。
頭は平均、運動は体力だけエグい。
特に何もしないことから立場としてはBが普通なのだが、内心は"勇気さえあればいじめられる"と思っている意外と黒い人。
まぁ、ランクはAよりのBといったところ。
秋の文化発表会とかで演劇部の劇は見るが、正直に言って全く印象に残らない。
俺の記憶にあるのはinfinity劇団とアイツだけ。


アイツとは同期のすめらぎ唯我ゆいが。年齢は俺と同じ。
俺、黒崎錬は”神童”と呼ばれ唯我は”異才”と呼ばれた。
唯我は俺と共に有名になって、俺と共にテレビから姿を消した。
つまり、中学になったと同時に理由を誰にも伝えずに辞めた、ということだ。
黒崎 柚
仲井、さんね……応募理由は?
仲井 知歌
わ、私は!黒崎さんと皇さんをテレビで見て、同じ舞台に立ちたいと思い、演劇を始めました!
黒崎 柚
へぇ……
仲井 知歌
今回応募させていただいたこの映画は、脇役にもエキストラの人を使うということでこのチャンスを逃したくなく、精一杯頑張らせてもらいます!
黒崎 柚
…頑張ってください。
漣 和久
じゃあ、始めてくれ。
仲井 知歌
はい!
……あぁ、この子は俺が…いや、黒崎錬が憧れなのか。


何とも言えない気持ち。
まただ。
こいつは何とも言えない気持ちにさせた上にそんなに劇が上手くないっていう本当にダルい気分にさせられる。
仲井 知歌
ありがとうございました!
全ての人が終わり、俺達は別室へ。
スタッフ
終わりましたら、声掛けをお願いします!
夕凪 朱璃
了解です!
スタッフが部屋を出たと同時に俺は立ち上がる。
夕凪 朱璃
あれ?もう帰っちゃうんですか?
黒崎 柚
あ、はい…俺には選べません……
漣 和久
黒崎君。”覚えている”のは誰だ?
ジジイは俺にそう聞いた。
俺は一番覚えている=一番良いからな。
黒崎 柚
そうですね…
一番、印象の良かった……あ、あの子。
あの子なら一緒の舞台に立ってもいいかなって思った……
黒崎 柚
……思い出した、中学3年生の鈴木綾さんだ。俺は今日見た中であの子なら共演してもいいって思えた。あとの人は漣さんと夕凪さんに任せます、今日はありがとうございました。
そう言い残すと、俺はオーディション会場を後にした。
あの子ならきっと伸びるだろうから少し期待。


それよりも、知歌。
次のターゲットはアイツで決定だ……。

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