無駄に広い部屋にある、豪華なベットから身を起こす。
私、篠森愛芽が通うことになる<星彩高校>には、
めめ村メンバー(私の立ち上げたグループ)
全15名の内、14名が入学する。
別に私が『この高校に入って!!』
なんて頼んだわけじゃない。
ただの奇跡……です。
そして、めめ村のメンバー同士は、今日会うのが初めて。
【声】以外、お互いの本名も顔も分からない。
……でも私は、みんなには申し訳ないけど、
めめ村メンバー達の情報を調べさせてもらった。
だから顔、年齢、名前くらいは知っている。
でも、まさか……
いやなんならもう1周回って、なんで茶子さんだけ来ないんだみたいな事はある…よね。
でも、みんなと今日初めて会うから楽しみだとか、そんなわくわくする気持ちは一切ない。
だって……
私は、超有名財閥《篠森グループ》の、令嬢だから。
あいやあの、自慢とかって訳では無いですよ!?!?
篠森財閥の令嬢である私は、
周りからずーーっと期待されてきた。
別にそれはいい。
私はいわゆる「天才」というもので、
学業もスポーツも、やらせれば最低限の努力で、
なんでも上手くできる。
でも、痛いのは周りからの扱いで。
お金目当てに寄ってくる人しかいない。
学校外で出来た友達もだ。
私の立場を知ると気まずくなってさ。
……結局は私に媚びを売るか、離れていく。
そんなこんなで、今まで表面上の友達しか居なかった私は、めめ村のみんなに出会った。
でも、そんな大切なめめ村の皆に、
今日、私の正体がバレてしまう。
『私の立場を知ったら、めめ村メンバーは私に対してどんな態度をとるんだろう?』
『今まで通り、軽口を叩きあったり、煽りあったり、楽しくゲームをすることは、出来なくなるかもしれない』
そんな漠然とした不安が、
私の中でふつふつと湧き上がってくる。
本当に、この苗字はいつまで私を地獄に落とせば気が済むのだろう。
そんな不安を感じたまま無理矢理寝たからなのか、
汗をかいているし、夢見が悪かった。
加えて新入生代表の言葉の台本も覚えきれていない。
とりあえず、おぼつかない足取りで洗面台まで向かう。
ヘアバンドをつけて、
冷たい水をぱしゃぱしゃと顔にかける。
もこもこの泡でくるくると顔全体を洗い、また水で流す。
化粧水をして肌の調子を整えたら、
乳液とクリームを重ねてつける。
ヘアバンドを外して、今度は髪をとかす。
そして、ふわっと花の匂いがするお気に入りのヘアオイルを髪になじませて、
また櫛で念入りにとかす。
最後に前髪を整えて…
よし、これで完璧だ。
最後に鏡の前で笑顔を作る。
自分でも感心するくらい、眉の下げ方、口角の上げる具合、瞳の開き方。
全部、全部。完璧に調整されている。
篠森愛芽は絶対に完璧な存在でいなくてはいけない。
父からも母からも、使用人からも。
耳にタコができるレベルで聞いてきた。
部屋にある掛け時計をちらっと見て、1人呟く。
その間に台本を全部覚えられるかな。
自分の中で湧き上がる不安を無視して、
できるだけ頭を合理的に働かせた。
…数分経って、メイドが食事を持ってきた。
メイドがいなくなってから、私は1人で食事を始めた。
父や母と一緒には食べない。
まず、父は多忙だし、
母は……、
いきなり入ってきたメイドに困惑しながらも、
いつもの笑顔で対応する。
なっっっっが。
メイドさん、毎回よく覚えられるよね。
バタンッ
『篠森家の一員』『親からの命令』
こういう時だけ、「家族」だということを使ってくる
…………本当に都合がいいと思う。
これでも、まだ無知な頃は、
ちゃんと家族として見ていた。
__そう。2人は私が幼い頃は優しかった。
…いや、優しいふりをしていた。
子供がなつけば、育てやすい、
言うことをなんでも聞く駒にできる__
と考えてのことだと思う。
幼い頃は、そんなことに気が付かなかったけど。
でも、私は少しずつ成長していくにつれ、
元々頭がいいのに加えて、勘が良かったため気付いてしまった。
『父と母は私のことを愛していない』
それに気付いたのが最後、
2人の態度は急変して、冷たくなった。
まるでバレたなら仕方がないというように。
昔はお父様、お母様と尊敬して呼んでいた様付けも外れ、今では父、母呼びになっている。
…人前では様付けをしなさいと言われているけど。
そんなことを考えながら、
味も感じないご飯を食べる。
…比喩表現じゃなくて、ほんとに味がしないのだ。
メイドがお皿を下げて、部屋はまた静かになる。
時計の微かなチクタクという音と、自分の呼吸の音しか聞こえない。
静かな空間は好き。
だって、偽って完璧な笑顔をする必要がないから。
このまま、静かな時間が続けばいいのに。
毎日、そんな叶わないことばかり考えてる。
星彩高校のセーラー服は、可愛いととても人気だ。
セーラー服の上部分は、自分で色を指定出来るリボンが付いていて。
胸元の辺りはキュッとしまっているのと相反して、袖の部分がふわふわしている可愛いデザインになっている。
紺色のプリーツスカートは、履き心地も良くて、綺麗な柔らかい曲線を描いていている。
ついついターンしたくなる…らしい。
この可愛いセーラー服を着るためだけに
入学してくる人もいるくらいだ。
セーラー服なんてどれも同じだし、
私には理解し難いけど……
…まぁいいや。
あと15分で家を出れば、
余裕をもって学校に着くことが出来る。
台本も完璧に覚えたし、もう特にすることもないかな。
ー10分後ー
ローファーを履いて、門の前に立つ。
いちいちメイドがドアを開けてくれて、
この家…というか屋敷?の使用人全員が見送りをする。
これでも、中学生までは登下校の際にSPも着いてきた。
高校に上がってからはお願いをして、
1人で登下校させてもらえることになったんだけど。
……だから、今日初めて1人で登校する。
私は1度後ろを振り返り、微笑んだ後で。
学校に向かった。
ーあとがきー
追記・あの、2回目なんですが言っておきます!この小説は、茶子さん加入前に書いたやつを少し変更して書いているので、茶子さんはまだ出てこないです!!転校生として後々やって来るので、
茶子さん推しの方は首を洗って待ってろ下さい()
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。