第2話

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2023/11/29 10:27





ルビー
クソッ、一体誰が……






現在起きている異変の主犯、ルビーは今、とても機嫌が悪かった。
まぁ、何年もかけて練った計画をたった今何者かによって台無しにされたのだ。
しょうがないと言えばしょうがないだろう。




ルビー
しかも2カ所だぞ…、有り得ない……






自分自身でさえ壊す事の出来ない代物を、意図も簡単に壊して見せた人物が二人いる。
今現在幻想郷での最強は自分だった、自分の筈だった。
力だけなら自分を超越する存在がいる、という事。
それがルビーにとって一番気に食わない事であった。

苛立ちを抑えきれずほんの少量の殺気を漏らしながら、ルビーは歩く。
歩いて、歩いて、歩いた先で。




ルビー
……は、?






ルビーは、ソレ・・を見つけた。




ルビー
……誰だ、お前










はる
ひっ……ぁ、……それ、は、“命令”ですか……?
ルビー
……は?





命令。

白銀髪の少女は、そう言って怯えながらルビーの方を見る。
見据える。

少女の瞳は、とても綺麗な空色で。
それこそ青空をまんま嵌めたかのような___。




ルビー
……命令だと、言ったら?
はる
…晴、です。一条、晴……
ルビー
……そうか





何とも言えない気まずい沈黙。
ただのルビーに怯えた少女なのだろうか?否。

ルビーは“その異質さ”を感じ取っていた。




ルビー
( なんだ、コイツの魔力量は……
  まさか、無自覚なのか…? )






空色を描いた魔力。
それだけならまだよかった。
今自身に怯えているこの少女、魔力だけなら軽くルビーの倍はある。

そして何より、この少女が怯えている理由が。
自分ではなく、“男性”であると言う事をもまた、ルビーは見抜いていた。




ルビー
( 利用できるのなら、したいものだが )
はる
ひっ……
ルビー
…なっ、暴走化が、出来ないだと……?!





晴と名乗った少女に近付いて、左手で触れる。
しかし何故だろう、少女は意識を失うことなく、
未だこちらを怯えた目で見ているのだから。

ルビーは驚きと今までの苛立ちを隠す様に少女を睨む。
しかし少女は睨まれた所で、今以上に怯える事は無かった。
少女の中にある、ほんの少しの余裕が、ルビーを更に苛立たせる。




ルビー
お前、何やった!!
はる
ッ……能力、ですよ
ルビー
能力だと…?
はる
手……出していただけますか…?





少女に敵意が無い事を確認したルビーは左手を出した。
少女の出した右手にそっと近づける。

するとどうだろう、密着まで後1㎝という所で、
それ以上近付く事が出来なくなってしまったのだ。
左手が、止まってしまったのだ。
離す事は出来るのに、近付けることはできない。

ルビーは、目を見開いた。




ルビー
なっ……
はる
…これは、貴方と私の間にある“無限”です
ルビー
…続けろ
はる
…仰せのままに。
…無限は至る所に存在します、私は今、それを現実に持って来ただけにすぎません。
僅か1㎝の様に見えるこの距離も、実際は何万キロも、それこそ無限に離れています。
そういう錯覚が起きる、事実だけを持って来ているんです
ルビー
成程な





確かにそれだと触れない事にも納得がいく。
が、これは中々に強い能力。
野放しにしておくのは勿体無い、しかしながらに暴走化はさせられない。
さて、如何しようか。

その時、ルビーの頭の中で何かが動いた。




ルビー
……それはお前の能力か?
はる
能力の一部、ただ応用しただけのものです
ルビー
……お前、命令には従うんだな
はる
?はい
ルビー
自分で好きに行動したりはしないのか
はる
自分で…?決定権などありませんよ





ちょっと疑問に思っただけ。
ちょっと興味が沸いただけ。
その質問に少女は、震える体を抑えつけて、
無理矢理ながらに下手くそな笑いを浮かべて見せた。














はる
___私はしがない商品ですので。
それ以上でも、それ以下でもありません





少女の服装が髪がゆらりと揺れた。




ルビー
な、お前…それ……




髪が揺れた事によって、露になった少女の首元。
刻まれた1105という数字に、ルビーは目を丸くした。

どうやらこの少女、ただの能力者という訳でもなさそうだ。




ルビー
……よし
はる
…ッ、?
ルビー
“命令”だ、晴…と言ったな?
はる
!!
ルビー
俺の計画を手伝え、良いな?
はる
……はい。
仰せのままに





少女は知らない。
それを見ていた何処かの神様が、
「 あちゃ~~~…… 」と天を仰いでるのを。
ちょっと愛が重すぎる少年が、同刻別のルビーの胸倉掴んで色々とやらかしている事を。

しょうがないと言えばしょうがない、だって何故なら。



___少女は、記憶喪失なのである。





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