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第3話

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2023/12/06 10:09





……。

気まずい、というべきかなんというべきか。
晴はあの後何も喋らず、ただ静かにルビーの後をついて来るのみ。
ルビーも何とも言えぬ歯がゆさを覚えていた。
自分でも分からない感情であったからか、ルビーの苛立ちが再び沸々と湧き上がる。




ルビー
そう言えば、お前
はる
はい?
ルビー
それだよ、それ。
堅苦しいの辞めてくれる?癪に障るんだけど
はる
んぇ…。
あ、分かった…?





先程の威厳がある口調とは異なるルビーの口調に少し驚く。
と言っても作者陣曰く「 黒幕ノリノリルビークン 」は口調が掴めないからなぁ。
困惑しつつも命令と捉えて敬語を外そうと奮闘する晴も晴だが、
初対面のよく分かんない爆弾抱えたガキを一人自分の思い通りに動かすルビーもルビーである。
本来なら人間性を疑われかねない。
まぁそんなものがあったら異変なんて起こしていないのだろうが。




ルビー
それと、今から初仕事してもらうから
はる
仕事…
ルビー
そ、もうすぐ聞こえて来るんじゃない?





聞こえて来る、と言われたからかそうでないからか。
晴が眼を閉じて耳を澄ませる。
その様子を見て、そういう行動は自分の意思でやるんだよなぁ、
と謎の違和感をルビーが感じ取っていたのだが、その話は後にして。
聞こえて来る、耳をすませば。





「 まぁ目の前の大バカが僕を助けてくれたんだけどね 」
「 大バカ言うな! 」





その声に、晴は何故か目を見開いた。
まるで予想外の人物に出会ったかのように、
本当に驚いていた。
が、ルビーはそれには気付かない程に興奮していた。
格好の餌が目の前にあるのだから、この機会を逃せるはずもない。

ルビーは気付いていない。
晴もまた、自分が何故目を見開いたのか分かっていない様だった。

ルビーに少し待ってろと言われ、草陰から様子を伺う。





はる
( 助けてくれた、ねぇ )





何故そんなことを思ったのか。
そう問われれば答えは出ない。
それでも、引っかかった。
その違和感に、少しだけ頭を悩ませていた。
助けてくれた、には一体。
どんな意味があるのだろう、知っている気がして、でも知らない。
不思議な感覚に腹が立つ。

いや、違う。
腹が立っているのは、そんな感覚じゃ無くて。
そんな感覚なんて不確かなものに対してじゃ無くて。
___あの、少女に。




はる
( 私の事は、誰一人助けてくれなかったのに )





これはただの嫉妬だ。
目の前の少女は救われて、自分は救われなかっただけの話。
環境が悪かった、運が無かっただけとも言える。
それでも、生きている誰かのせいにしたかった。
そうやって、縋りたかった。
晴には、癇癪を起して泣いたという経験すら無いのだから。
どうにかして、自分を保とうとして。
誰かのせいにして、理不尽に責任を押し付けて。
そしてようやく。




ルビー
来い、晴
はる
!!はーい





考える事を、停止した。




ルビー
 や っ て く れ た な 
紅葉くれは
なっ、嘘…
まさかあれを喰らって無傷だなんて…!
キラ
やっぱり一筋縄では行かねぇか…。
それに誰だ、ソイツ……





警戒心が露になる。
驚愕や恐怖の感情が肌にピリピリと伝わってくる。
キラの、紅葉の、視線が痛い。
いや、違う、痛くはない。
そんな視線には慣れてる、そうじゃない。
違う、じゃあ、一体何に___。




はる
( あ…… )
ルビー
今の俺じゃ無かったら半殺しだったぞ___
紅葉くれは
そんな、有り得ない…___
キラ
何なんだよ、その目……
はる
( そうか、私…… )





















はる
( オマエにだけは、嫌われたくないんだな )





キラの困惑の表情。
変わる事無い警戒心。
ルビーと紅葉が何か喋っていても、今の晴には届かない。
分からないけれど、嫌われることが怖い。
何故?どうして?
私に其処まで思わせる、オマエは一体何なんだ…。




紅葉くれは
半減…今の…この状態で……?
キラ
( いよいよマジでヤバくなって来たな…コレ…… )
だとして、じゃあ、さっきから動かねぇソイツは何なんだよ!
はる





ソイツ、と指を指されて若干狼狽える。
自分の話題に上がったことで思考に浸っていた意識が覚醒する。
ルビーは何とも思わない様に、それこそ興味の欠片も無さそうに。




ルビー
さっきその辺で拾った、良いように動く人形だよ





「 は……? 」





その疑問を口にしたのは、一体どっちだったか。
拾ったことについても気になるだろう。
よく分からない言葉の羅列だろう。でもきっと、この二人の腹が立ったのは。
___人を、人形扱いした事。
それ以外に何か理由があるのならば、教えてもらいたいところだ。




ルビー
おい、無限解け
はる
え、あ、はい…?





なんだか戦いたくない、そんな思いが湧き上がってくる。
そんな中でふと耳元で小さく囁かれたその言葉に。
疑う余地も無く無限を解いてしまった晴。
命令とはそういうものだ、考えるより先に命令を実行しなければならないのだ。
だから、考える前に、何か結論に辿り着く前に、堕ちるのだ。




ルビー
お前らに見せてやるよ、暴走化される瞬間って奴をな!
キラ
まさかっ、お前、辞めろ!
紅葉くれは
届かな……
はる
___え?





分からない。
そう、分からないんだ。
何が起きたかなんて知らないし。
そもそも何でこんな場所に来たかも分からない。
分からない筈なのに。
何だ、なんだこの違和感は。
暴走化、洗脳。
___知ってる。

私は。

晴は。



この異変を、知っている。




はる
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!?!?!?
キラ
ッ、くそっ!!





痛い。
いたい?そう、いたいんだ。
眼が、頭が、割れそうな程に。
暴走化とか、そんなんじゃない、そんな事どうだっていい。
この、情報の多さに。処理能力が、追いついてないんだ。
割れる、頭が。
眼が、熱い。
何で、なんで何で何で……ッッッ!!





「 晴は俺のモノだよ 」





それ以外の、何者でも無くて。
それ以上も、それ以下でも無くて。


勝てる訳が無いのだ。
数年、下手したら数十年の月日。
毎日、毎日。
ずっと傍で、ずっと近くで。
___ずっと、洗脳して来ていた少年の力に。

たかが最近生まれたばかりの世界で生きる、男の力なんて。
数分で終わる程度の洗脳なんて。

敵う筈が___。




はる
( あれちょっと待てよ、もしかして今此処で堕ちたら私が動く必要無くないか?? )





……えっ?




はる
( ………というかちょっと洗脳されてみたいかもしれない、え良いよね?
  別に良いよね、ウン。脳内のキラがいーよ!
  って言ってるからOKって事にしようそうしよう。 )






敵う筈は、ないのだが。
まぁ、うん。
___いろんな理由というか、晴の自己中心的な考えによって。




はる
……
ルビー
殺せ、一人残らずな
はる?¿
ルビーの仰せのままに






まぁ、うん。
ルビーは救われたのである。
……世の中知らない方がいい事もあると言うが、今が正しくそんな感じだ。
因みに何処かの神様はナンデダヨッッッッ!!!!!!!!と叫んでいたのだが。
気のせい、という事にしよう。





「 何でオマエ拘束されてねぇんだよ、きしょ… 」
はる
あ゛?うるっせぇな暴走薬ちょっと黙っとけ
「 は??何言ってんだオマエ 」
はる
今洗脳されてめっちゃいい所だろうが!?
この先晴がどう動くのか視たいんだよ黙ってろ!!
「 何なのオマエ怖いんだけど!?!? 」





……スゥッ。
視なかったことにしよう、そうしよう。




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