僕は天使。この天界の住人だ。
せめて名前を名乗れたらいいんだけど…僕達は地上の動物たちのように「名前」と言うものを与えられないんだ。
このように、生まれてきた順番で番号をつけられる。
なぜ名前が無いのかは僕にも分からない。
ただ、自分より番号が小さいものは年上、大きいものは年下だということは分かる。
今日の仕事場を見てはぁ、とため息をつく。
また、地上の見張りか。
他の天使たちは綺麗な泉のお掃除だとか、複数人で力を合わせて最高神様の住まう大きなお城の家事等をしたりだとか、そういう楽しそうな仕事に就いている。
しかし、僕の場合は天界から地上の様子を見ることが出来る、「透過の出水」という泉を一日中見ているだけなのだ。
つまらない。
そういう活発な仕事を与えられるのは皆、「普通の天使」だから。
僕は他の天使とは違い、”劣って”いるから。
そんな劣等感に押しつぶされながら、いつものように泉の前に体育座りでしゃがみこむ。
今日は、日差しが暖かくて心地いい。
このまま、眠ってしまえそうだ____
しかし、空中をふわふわと漂うようにまどろみかけていた僕の意識は、「ドンッ」という鈍い音と体に走った強い衝撃で引き戻された。
……あぁ、今日も来た。
「他とは違う」僕を面白がり、貶してくる奴らが。
強引に髪を引っ張られ、思考の沼から引きずり出される。
体に染み込んだ暴力特有の痛みにはいつまで経っても慣れることが出来ない。
衝撃を与えられる度に、僕の体は痛みで悲鳴をあげる。
そのまま振り上げられた足でみぞおちの部分を蹴られ、ひどい吐き気がする。
これが、天使のすることなのだろうか。
感謝なんてするわけねぇだろ。
そう口に出しても反感を買うだけな気がするので、黙っておく。
体を強く押される。
受身を取ろうと後ろを振り返った次の瞬間、自身の体はバシャりと水の中へ入っていった。
僕が倒れたのは、泉……透過の出水だった。
必死に手を伸ばしても、目の前の3人は口論しているだけで助けてくれやしない。
目の前にある景色とどんどんかけ離れていき、僕の体は水の中へ溺れてゆく。
そのまま息も出来なくなり、僕はそこで意識を手放した。
天使なのに、こんな最期……かっこ悪いなぁ、
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。