第110話

分岐点④
3,759
2019/04/17 12:13


 私はユウのことが、ときどきわからなくなる。それでも、問い詰めたりしない。そんな女々しいことはしない。
 あなたの口からどんな言葉が飛び出すか。なによりそれが怖かった。
 ユウが入院している間、私は自分のアパートへ帰った。ひとりの空間。必然的に考える時間が増えた。
 いつかユウのほうから離れていくときが来るかもしれない。大切なものが消えて無くなる恐怖。
 この五日間、私はそんな日が来てもいいように、すこしずつ心がまえをすることにした。
 ユウという存在が私からなくなっても、それが当たり前の日常だと思えるように、ちゃんと耐えていけるようにーー。
 覚悟しなければならない、と思った。
 いつかくるかもしれない別れのために。
 いつかくるかもしれない悲しみのために。
 だいじょうぶ。どんな未来でも受け止められる。
 うつむけていた顔をあげた。視線をそっとユウに移す。彼はやはり空を見つめていた。
 真っ直ぐな眼差し。とても綺麗だ。まるでそれ自体が輝きを放っているように、ユウの瞳はまたたいていた。
 あなたの見つめる世界。そこに、私の姿はあるのだろうか。あなたの見つめるその未来に、私はいるだろうか。

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